……―


誰かの視線を感じて瞼を開けた。

「わ、」

 まだ寝ぼけた眼を擦る暇もなく、文乃は上半身をがばっと上げる。顔を覗き込むように文乃を見下ろしていたのは鷹臣だった。
寝顔を見られたことへの羞恥心も相俟って早口になりながら問う。

「な、何故鷹臣様がここに?」
「ノックはした。声がしなかったから何かあったのかと思ったんだ」
「…すみません、寝ておりました…」
「いや、いい。疲れていたのだろうから。屋敷内の案内は済んだか」
「はい、リクにしてもらいました」
「そうか。分からないことがあれば俺に言ってくれ。あとはシノに聞けば大抵のことはわかるだろう」

 すこし疲れた顔をした鷹臣だが、文乃を捉えると途端その目が柔らかく形を変える。
安堵を滲ませた表情を見ると心臓が早鐘を打つ。

「明日はちょうど午前中時間が空いているから銀座あたりにでも行こう」
「どうしてですか」
「どうして?…嫌だったか?」
「そういうことではありません。…むしろ、楽しみです」
「そうか。俺は君のことをもっと知りたいと思っているし、少しでも君に喜んでほしいと思っている」

 そんな気恥ずかしさの残るような言葉を彼は何の躊躇もなく真っ直ぐに伝えてくる。
それがとても嬉しいと思うのだ。

―私も、あなたのことをもっと知りたい。

そう思うことが、おもってしまうことが恋なのだと思った。