「つまり、妖を見ることの出来る“能力”のある私は花嫁の条件に合うということでしょうか」
 そうだ、とみじかく答えた鷹臣に文乃は肩を落とした。
頬の傷があろうとなかろうと大して重要ではないのはそういうことだったのだ。
決して文乃が良かったというわけではない。ただ単純に条件が合っただけの話だった。

「準備が整うまで、というのは辻斬りの件がしっかり片付いてから君を迎え入れる予定だった。だが、想像以上に相手が厄介だったために遅くなってしまった。申し訳ない」
「もう解決はされたのですか」
「ほぼ、というところだろうか。後は部下に任せている。だが最近他の問題が増えた。世間では神隠しと言われている」
あぁ、と文乃は回覧板で見た神隠しの文字を思い浮かべていた。

「それももうじき片付くだろう」
「分かりました。あの、どうして私に妖が見えることを知っているのでしょうか」
「久我家の人間は、力のある人間を見つけることが出来る。少し前に文乃を帝都で見かけた。随分と強い力を持っていると思ったからどこの家の者か調べさせた」
「そうですか。あの!あと一つ…」
「何だ」
「昔…子供のころ、私を助けたのはあなたですか」

鷹臣が瞠目する。数秒間があった。文乃は緊張した面持ちで答えを待った。

「あの泉には…妖がよく現れる」
「……」
「幼少期にあの場所で少女を助けた。その時にその少女は頬に大きな傷を負った」

 自分のことだと悟った。思わず胸元に手を添えていた。
胸の高鳴りを抑えるために。

「俺があと少し助けるのが早ければ、君に傷を付けずに済んだのにと今も思っている」

後悔を滲ませるように顔が曇っていく。
文乃はゆらゆらと首を横に振っていった。

「いいえ、鷹臣様のお陰で命が助かりました。こんな傷、どうってことはありません」
目を細め、口元に弧を描くと鷹臣ははっとしたように目を見開く。
そしてすぐに視線を外した。

「あの時瀕死状態だった妖は今も久我家にいる」
「え、リク…のことでしょうか」
「そうだ。助けると約束しただろう」
「…はい」
「心配いらない。使用人として働いている」

 リクに会うことが出来る。あの時出会ったあの少年はやはり鷹臣のことだった。
嬉しくて奇跡に近いことは次々と続いていく。