あやかしたちが陽菜をどこかへ連れて行くと、龍神と羽月は改めて向き合った。
「龍神様、もしかして私が村の長に選ばれた花嫁ではなかったということだけでなく、私がずっと呪われた娘だと偽られていたこともすべてご存じだったのですか?」
「ああ、そうだ。黙っていて済まなかった。お前がもう少し私との生活に慣れてからすべてを話そうと思っていたが、こんなことになってしまって驚かせて申し訳ない」
 龍神が羽月に向かって頭を下げると、羽月は「顔をお上げ下さい!」と慌てて言った。
「いえ、龍神様ありがとうございます。何もかも知っていたのに、私を龍神様のおそばに置いてもらって……」

 羽月は龍神の優しさが嬉しかったが、同時に淋しくもあった。つまり龍神に差し出される花嫁は神社の長が選んでいただけで、誰でも良かったのだ。だから龍神が自分を近くに置いてくれていたのは、ただ単に最初に来た娘だからというだけなのだ。自分でなくても、他の娘、それこそ陽菜が最初に龍神の花嫁として来ても龍神はその娘を選んだのだろう。
「羽月、それは違うぞ」
 龍神がまるで羽月の心の中を読み取ったかのように言う。龍神は羽月を見下ろすとそっと羽月の手を取った。
「龍神様……」
「確かに龍神の花嫁は神社の長が決めるかもしれない。でも私はお前の気立ての良さや優しさに魅かれたのだ。他の娘が花嫁としてきたとしても、お前ほどこんなに心を惹かれることはなかっただろう。――羽月、正式に私の花嫁になってくれないか?」
「えっ?」

 羽月は龍神を見上げた。龍神の手は温かく、その眼差しも温かい。いや眼差しには熱ささえ感じる。龍神のこの眼差し、どうやらさっき言った「正式に私の花嫁になってくれないか?」と言う言葉は本当らしい。羽月は嬉しさに自然と笑みが浮かんできた。
「はい、龍神様、喜んで。ぜひこの羽月を本物の花嫁にしてください」
「よかった! 嬉しいぞ、羽月」
 龍神は突然羽月を抱きしめた。羽月は驚いたが、恐る恐る自分の手を龍神の背中にぎこちなく回した。
「私も嬉しいです、龍神様」
 生まれた時から虐げられた人生だった。でも、これからは龍神様のおそばでずっと幸せでいられる。羽月はそう思いながら、幸せをかみしめていた。


【了】