「私、大きくなったら蒼くんと結婚したい。でも、これはまだ二人だけの秘密ね」

「うん。いいよ」

俺がそう答えると、ひーちゃんこと宇佐美緋彩は、
僕の頬を両手で激しく掴むと、キスしてきた。

当時俺たちはまだ幼稚園の年長組。
だからキスした場所も、みんなが(秘密のおうち)と
呼んでいた黄色い壁と赤い屋根が特徴的な遊具の中。

幸い周囲に人がいなかったおかげで、誰かから、

「せんせーあおくんとひーちゃんがチューしてるー」

などと言われる事もなくその出来事は俺たちだけの秘密になった。


しかし残念な事にまだ幼すぎた俺は、女の子からキスをされるという衝撃的な出来事を受け入れるだけの知識もなく、ただただ彼女にされるがままになっていた。

そしてようやく出た言葉は、

「ダメって、どこまでダメ?ママになら言ってもいい?舞先生には?」


という今の俺なら頭を抱えたくなるような、素敵な返事だった。ちなみに舞先生とは俺たちの担任の先生の名前だ。
そんな出来事も、年が経つにつれ次第に曖昧になっていった。
新しい思い出が、積み重なっていって、古い記憶を覆っていく。
そんな感じと言えば伝わるだろうか。

そしておそらく次の日から緋彩が登園しなくなった事も理由の一つだろう。