その後なんだかくたびれてもう一度寝ることにした李瀬は、夕方が近づく頃に目を覚ました。
「おはようございます、李瀬様」
「八重……戻っていたのね。おはよう」
まだ頭の芯に眠気が残っている。まぶたを軽くこすりつつ八重の様子を見ると、今朝よりもずっと明るい表情をしていた。
「姪御さんは、薬をちゃんと飲めた?」
「ええ、粉薬や煎じ薬は嫌がるのですが、李瀬様にいただいた丸薬はすんなり飲んでくれました。昼頃から少し楽になったようで、食欲も出てきて……本当にありがとうございます」
「いいのよ。何より、薬が合ったみたいでよかったわ。気になる変化があればまた教えてちょうだいね」
「かしこまりました」
目覚ましに顔を洗っているとお腹も空いてきたので、八重が作ってくれた卵粥と汁物をいただく。
そういえば今朝、自分で卵粥を作ろうと思って米を浸水させておいたが、梶の訪れからの怒涛の展開ですっかり忘れていたことに李瀬は思い至る。しかし八重のことなのできっと、この粥に使ってくれたか、昼に食べるかしてくれただろう。
出汁がきいた汁物を味わいつつふと八重を見ると、何か思い詰めたような、話を切り出す機を伺っているような、なんとも言えない緊張感を漂わせている。
「……どうかしたの?」
「いえ、その……お食事のあとに少し伺いたいことがございまして」
「わかったわ」
軽めの食事なので、食べ終えるまでそう時間はかからなかった。
食後のお茶を淹れ終えると、八重がそっと口を開く。
「屋敷に誰もいないのですが……李瀬様は何かご存知でしょうか」
「ああ」
そういうことかと合点がいって、李瀬は八重がいない間に起きた事変とも言える出来事について、掻い摘んで話して聞かせた。
「そうでしたか、旦那様が……」
八重は驚きながらも、安堵したようにそっと息をつく。
「近頃の侍女たちの振る舞いはあまりにも度が過ぎておりました。旦那様がお気づきになられて、直々に対処してくださったのであればもう安心でございますね。……本来ならばもっと早くに私が陳情すべきだったと悔やんでおります」
「私が止めていたのだもの。八重は悪くないわ。そういうわけで、今この屋敷には侍女があなたしかいないの。重ね重ね苦労をかけてすまないわね、八重」
李瀬は眉尻を下げるが、八重の表情は晴れやかだ。
「元より、ろくに働かないばかりか邪魔すらされていたのです。楽になりこそすれ、苦労することはございませんよ」
確かにその通りだと、李瀬も釣られてくすっと笑った。