「こいつらが何をしたか、おおよそ調べはついている。まさか主人の意も汲めぬ愚か者が大半だったとはな」
淡々とした司の声は、だからこそ余計に恐ろしく聞こえるのだろう。うつむいた侍女たちは、唇を噛み締めたり、ぎゅっと握りしめた拳を震わせたりして、一層顔を青白くする。
政略結婚も多い祓魔師の世界ではなおさら、夫に見向きもされない妻の立場は弱い。彼女たちが李瀬を軽んじるのも無理のないことだ。
しかし、彼の力の強さやそれに伴う弊害を考えると、徹底して遠ざけることは守ることにもつながるとすぐにわかる。温情である可能性に思い至らず、軽んじるどころか嫌がらせまでしていたのだから、冷淡に断じるならば確かに愚かと言えるだろう。
「お前」
「は、はい」
指さされた右端の侍女は、震える声で答える。
「お前の仕事は」
「……侍女でございます」
「李瀬付きとしたはずだが、お前は何をしていた」
「お……お屋敷を磨いたり……」
「屋敷か。小癪な言い方をする。正確に言うなら『母屋を』だろう」
「……も、申し訳ございません!」
謝罪には見向きもせず、司は次の侍女を指し示す。
「お前は、通いの庭師に嘘をついたな。離れに男を入れるなと指示されていると」
(それで途中から庭師が来なくなったのね)
あまり見苦しくならないよう、低木は李瀬が時折手入れをしていた。庭師の訪れがぱったりと途絶えた理由が今になってわかり、ポンと手を打ちたい気分になる。
「お前は食事を減らす嫌がらせを主導したな。お前にはこれが朝食に見えるのだろう? 退職金代わりに持っていって構わんぞ」
左端の侍女の前に、梶が小皿を置く。今日の朝食として届けられた、煮干しの頭だ。
返す言葉もなく黙り込んだ彼女は、少しうつむいたまま視線だけを上げ、李瀬を睨むように見る。
(私が告げ口したと思っているのかしら。何も言っていないしお門違いな怒りなのだけれど。そもそも、窮状を訴えたとしても何も悪くはないわよね)
どこまでも軽んじられたものだ。少しやるせないような気持ちになるだけだった李瀬に対し、司は明確に怒りを示した。
「主たる李瀬を睨むとは何様のつもりだ。この期に及んで見苦しい」
低く冷たい声が響く。
それと同時に、空気すらもひんやりと冷えたような気がした。
「うぐ……っ!」
──いや、気のせいではなかったらしい。
侍女たちは心臓のあたりや首元を押さえ、息が詰まったかのように苦しみ出す。
(何が起きているの……? もしかして、霊力か術で何かしている……?)
状況がよくわからず、おろおろと司と侍女たちを見ていると、彼の目が李瀬へと向けられる。
「ここではなんだ、離れへ行くか。梶、そいつらは追い出しておけ」
「かしこまりました」
立ち上がった司は、座っていることすらできず倒れてもがき苦しんでいる三人には目もくれず、離れの方へと歩き始める。
「奥様」
梶に声をかけられた李瀬はハッとして、急いでその背中を追いかけた。