――午後十五時四十五分。
場所は、学校の最寄りの駅近くのファーストフード店。私と波瑠は下校後に学生が集結している二階席の中央席に座ってお茶をしていた。
「郁哉先輩って、ほんっとにカッコ良かったよね〜。しかも、神対応。やっぱり私の目に狂いはなかったあぁぁ!!」
「顔面偏差値MAXに名前聞かれたら答えない訳にはいかないよね。はぁあ〜、私もまひろの横にいればよかった。そしたら名前くらい聞かれたかなぁ」
「また話しかけるチャンスができるかな。名前を聞いてきたってことは覚えてくれようとしてたんだよね。次に話すチャンスができたら、そこからどんどん恋が進展していって……」
私はドリンクのストローを咥えたままニヤニヤしながら恋愛している様子を思い浮かべていると……。
「お前の頭ん中、どんだけメルヘンなんだよ。名前を聞いてきたのは話に区切りをつけるためだろ。バーカ」
横から口をはさんできた星河がトレーを持ったまま私たちのテーブルを横切って行った。
「なっっ!! バカとはなによ、バカとは……」
ムキになって立ち上がると、星河のうしろから櫻坂さんが歩いてきた。そこでハッと我に返り、ゆっくり腰を落とした。星河たちは二つ先の奥に座るのを見届けると吐息が漏れる。
「はぁぁ……。何を言うにも気ぃ使うわ……」
「(星河たちに?)」
「……どうして小声?」
「(ってか、寂しいでしょ。櫻坂さんと付き合うまでは仲良く喋っていたのに、二人が付き合い始めた途端にギクシャクしちゃってさ。まひろと友達になった時は星河と付き合ってるかと思ったよ)」
「まさか、私が星河と付き合うなんて、ないない」
呆れ顔で手をひらひらと横に振っていたが、そのまま星河の方に目線を向けた途端、全神経が停止した。
「なになに、向こうを見た途端いきなり停止しちゃってどうしたの?」
「…………」
「あれっ? 櫻坂さん、ひょっとして星河にポテトを食べさせようとしてるのかな」
波瑠の言う通り、彼女はつまんだポテトを星河の口元に向けている。まるで、「あーんして」と言わんばかりに……。私の視界からは彼女の背中しか見えないけど、その奥に座る星河の顔はバッチリ見えている。すると、星河の目がこっちに向いたのでサッとそらした。
「多分……」
「やっるぅ〜!! お二人ともあっつあつだね。……はぁ、負けたわぁ〜。私たちも早く彼氏作ろ。ね! まひろ」
「…………う、うん」
二人の熱々ぶりに反応しちゃってバカみたい。
恋人だからいちゃついても問題ないのに。
「そろそろ帰ろうか。私、バイトあるし」
「ん? まだ十六時前だよ」
「その前に寄る所があるから」
私はトレーを持ってから足早に席を離れた。
波瑠は焦って後ろから追いかけて、返却棚にトレーを置いてゴミを片付け始めた私の隣につく。
「なに、どうしたの? そんなに焦ってさ」
「ごめん。急ぎの用だったことを思い出したの」
「なぁ〜んだ。星河たちの熱々の様子を見た直後だったから、てっきり二人にヤキモチ妬いたかと思ったよ」
「そんな訳ないよ。私には関係ないし」
自分でもびっくりするくらい見ていられなかった。
二人がどうなろうと勝手だし自由なのに……。郁哉先輩の件で幸せを満喫していたはずが、そのことが頭から完全に抜けてしまうくらい何かが引っかかっていた。
店を出てからも波瑠は二人の話題をやめない。ポテトの件がよっぽど刺激的だったのかな。
「なぁ〜んかさ、あの二人って仲が良いところを見せつけてくるよね。くぅ〜っ、初々しい!」
「興味ない! あいつなんて櫻坂さんにこっ酷くフラれればいいんだよ」
「おっ?? ヤキモチですか?」
「ちがーーーーう!!!!」
私が二人にヤキモチ? そんなの絶対違うし、認めない!!
……ただ、星河との間に大きな壁が出来たみたいで複雑な気分になっただけなのに。