約束の日、私は「少し街へ出てきます」と銀座へ向かった。
隣町だろうと、銀座だろうと「街」に変わりはないから嘘はついていない。家族も特に不審がっている様子はなかった。
それでも家の外に出る時に、私の弱い心臓が早鐘を打つのを感じた。
数年ぶりの銀座は人が犇きあっていた。ほんの数年前には無かったはずの新しい店や建物が林立している。
震災やそれに伴う火災で大きな被害が出たと聞いていた私は、その復興の早さとさらなる発展の様子に吃驚してしまった。
待ち合わせ場所の喫茶「黒猫」は、真白な壁に紫色の窓枠が映え、異国情緒あふれる外観だった。
壁に貼ってあるチラシを見ると、火災で焼失した前の建物の代わりの仮店舗だそうだが、とてもそんな風には思えなかった。
店員に「人と待ち合わせているのですが」と告げていると、店の奥の方から「おうい」と声がかかった。
私は腰を抜かしそうになった。
そこにいたのは秀一さんのお義母様ではなく、秀一さんその人だったからだ。
「あ……あの、私、小田桐月子と申します。橘秀一さん……ですよね」
「うん。僕が橘秀一だよ。随分と迷惑をかけたね」
動揺している私に対して、秀一さんは事もなげに挨拶を返した。
「行方不明だったはずでは……」
秀一さんはそれには答えずに、「座りなよ」と前の席を勧めた。
「飲物はコーヒーでいいかい。何か食べたいのなら、僕のお勧めはフルーツポンチだけど、パンケークも絶品だ。お腹が空いていたらカリーライスやオムレットも食べるといい」
何も言えずにいる私に、秀一さんは穏やかに笑いかけた。
「まずはお腹を膨らませよう。その後で全てを話すよ」
「……はい」
本当はすぐにでも姿を消した理由を問いただしたいところだったが、店の中で騒ぎ立てるわけにもいかない。
私はおとなしく秀一さんの提案に従うことにした。
隣町だろうと、銀座だろうと「街」に変わりはないから嘘はついていない。家族も特に不審がっている様子はなかった。
それでも家の外に出る時に、私の弱い心臓が早鐘を打つのを感じた。
数年ぶりの銀座は人が犇きあっていた。ほんの数年前には無かったはずの新しい店や建物が林立している。
震災やそれに伴う火災で大きな被害が出たと聞いていた私は、その復興の早さとさらなる発展の様子に吃驚してしまった。
待ち合わせ場所の喫茶「黒猫」は、真白な壁に紫色の窓枠が映え、異国情緒あふれる外観だった。
壁に貼ってあるチラシを見ると、火災で焼失した前の建物の代わりの仮店舗だそうだが、とてもそんな風には思えなかった。
店員に「人と待ち合わせているのですが」と告げていると、店の奥の方から「おうい」と声がかかった。
私は腰を抜かしそうになった。
そこにいたのは秀一さんのお義母様ではなく、秀一さんその人だったからだ。
「あ……あの、私、小田桐月子と申します。橘秀一さん……ですよね」
「うん。僕が橘秀一だよ。随分と迷惑をかけたね」
動揺している私に対して、秀一さんは事もなげに挨拶を返した。
「行方不明だったはずでは……」
秀一さんはそれには答えずに、「座りなよ」と前の席を勧めた。
「飲物はコーヒーでいいかい。何か食べたいのなら、僕のお勧めはフルーツポンチだけど、パンケークも絶品だ。お腹が空いていたらカリーライスやオムレットも食べるといい」
何も言えずにいる私に、秀一さんは穏やかに笑いかけた。
「まずはお腹を膨らませよう。その後で全てを話すよ」
「……はい」
本当はすぐにでも姿を消した理由を問いただしたいところだったが、店の中で騒ぎ立てるわけにもいかない。
私はおとなしく秀一さんの提案に従うことにした。