数カ月後ーー……。
「楓花、今戻ったぞっ!」
戸口から大きな声で叫ばれて、私はパタパタと足早に向かった。
宝玉に願い事をした瞬間……私は『死』を覚悟した……。
けれど……私は死なずにすんだんだ……。
どうしてかと、いうと……風龍様だけでなく、弟御様《おとうとごさま》や両親の力のお陰なんだ。
風龍様は私を死なせたくない一心で風龍様自身の身体に残っている龍の力を使って、助けようとした。
その風龍様の行動と強い想いに突き動かされた弟御様と両親も力を貸してくれて……私は生きのびることが出来たんだ。
力を貸してくれたのは、これまでの風龍様の働きがあったからこそ……。
その働きとは……私が巫女としてのお役目を終える前から熱心に私と本当の夫婦になりたいと両親に申し出て、許しを得ようとしていた。
そこには本当の夫婦になるなら祝福してほしい……と、いう気持ちが強くあったみたい……。
風龍様はそういうことは言わないから……弟御様がこっそりと私に教えてくれた。
弟御様はその話を聞いてすぐに賛成してくれたようだけど……両親は私が巫女としてのお役目を終えて、上界に来ても本当の夫婦になることを許してはくれなかった……。
それでも風龍様は熱心に許しを得ようと幾度となく両親に頭下げて、お願いし続けたという……。
その姿を知っているからこそ……力を貸してくれたんだと思う……。
宝玉によって、願いが叶えられ、『風龍』としてのお役目は弟御様へと引き継がれ、次の巫女も迎え入れられたことになったため、国が滅びることも何かしらの天災が下界に起こることもなく、秩序は保たれ続けている。
風龍様は完全に龍の力を失ってしまって……ただの人間と化してしまった……。
ただの人間では上界に住むことが出来ず、下界での生活を余儀なくされた……。
もう二度と上界に戻れないばかりか、足を踏み入れることすら出来ないため、弟御様や両親にも会うことが出来なくなってしまった……。
もともと龍は名前を持たないというので風龍様には名前がなく、下界で暮らすのであれば名前がないと不便なので『りゅう』と名乗るように決めた。
下界の生活が始まった頃は風龍様もとい、りゅうの心情を思えば心苦しくなり、その姿さえいたたまれなくてまともに見ることが出来なかった……。
当の本人は私をきっかけに下界や人間のことに興味を抱き、りゅうなりに下界の暮らしを楽しんでいるようで、ホッとした。
中でも『農業』(土いじり)がとても楽しいらしい……。
上界にはもともと農業に適した『土』というものが存在していなかったということもあって……とても珍しいみたい。
近所の農家の方達に教えてもらいながら、野菜の育て方を勉強中。
私は……と、言えば、死なずにすんだだけでなくて、何故か風龍様の力が残っていて、巫女としてのお役目が終えた後……自分の思うように生きたい……と、いう願いが叶い、怪我をした人達の治療をしながら日々忙しくしている。
「楓花、見てくれ! こんなにも大きな大根が出来たぞ‼」
急いで戸口へとりゅうを迎えに出ると……私の目の前に太くて大きな大根を籠から出して見せてくれた。
りゅうは毎日、楽しそうに出かけては帰ってくるなりこうして、その日にあったことを教えてくれる。
「うわっ……」
「すごいであろう‼」
まるで子どものように瞳をキラキラさせてはしゃぐりゅうの姿がとても可愛くて……自然と口許が緩む。
「うん、すごいね! こんな大きな大根見たことがないよ」
「そうであろう、そうであろう」
りゅうは満足げな表情をして、何度もうんうんと頷いた。
「う〜ん、どうやって食べようか……?」
「何でも!」
「なにそれっ! ちゃんと何が食べたいか考えてよっ!」
ぷくっ……と、両頬を膨らませて少し不機嫌な声を上げた途端……
「きゃっ……」
さっと、手にしていた大根を籠の中へと戻して、りゅうが私を抱きしめた……。
「楓花の料理はどれも美味しい故……。そう、怒るでない」
「ーーっ……」
カーーッと、頬が熱を帯びて赤く染まった……。
「……楓花……」
「……っ……」
穏やかな声で名前を呼ばれ、見上げると……透明に近い澄んだ瞳が私を優しく見つめていた。
「愛しておる……楓花」
すーーっと、白く長い指先が私の頬を撫でて、顎をとらえた。
ゆっくり……と、りゅうが距離を縮めてきて……私はそっ……と、瞳を閉じる。
「私も……愛しているわ、りゅう……」
お互いの左薬指に結ばれた紐の深紅色がより美しく輝いたーー……。
「楓花、今戻ったぞっ!」
戸口から大きな声で叫ばれて、私はパタパタと足早に向かった。
宝玉に願い事をした瞬間……私は『死』を覚悟した……。
けれど……私は死なずにすんだんだ……。
どうしてかと、いうと……風龍様だけでなく、弟御様《おとうとごさま》や両親の力のお陰なんだ。
風龍様は私を死なせたくない一心で風龍様自身の身体に残っている龍の力を使って、助けようとした。
その風龍様の行動と強い想いに突き動かされた弟御様と両親も力を貸してくれて……私は生きのびることが出来たんだ。
力を貸してくれたのは、これまでの風龍様の働きがあったからこそ……。
その働きとは……私が巫女としてのお役目を終える前から熱心に私と本当の夫婦になりたいと両親に申し出て、許しを得ようとしていた。
そこには本当の夫婦になるなら祝福してほしい……と、いう気持ちが強くあったみたい……。
風龍様はそういうことは言わないから……弟御様がこっそりと私に教えてくれた。
弟御様はその話を聞いてすぐに賛成してくれたようだけど……両親は私が巫女としてのお役目を終えて、上界に来ても本当の夫婦になることを許してはくれなかった……。
それでも風龍様は熱心に許しを得ようと幾度となく両親に頭下げて、お願いし続けたという……。
その姿を知っているからこそ……力を貸してくれたんだと思う……。
宝玉によって、願いが叶えられ、『風龍』としてのお役目は弟御様へと引き継がれ、次の巫女も迎え入れられたことになったため、国が滅びることも何かしらの天災が下界に起こることもなく、秩序は保たれ続けている。
風龍様は完全に龍の力を失ってしまって……ただの人間と化してしまった……。
ただの人間では上界に住むことが出来ず、下界での生活を余儀なくされた……。
もう二度と上界に戻れないばかりか、足を踏み入れることすら出来ないため、弟御様や両親にも会うことが出来なくなってしまった……。
もともと龍は名前を持たないというので風龍様には名前がなく、下界で暮らすのであれば名前がないと不便なので『りゅう』と名乗るように決めた。
下界の生活が始まった頃は風龍様もとい、りゅうの心情を思えば心苦しくなり、その姿さえいたたまれなくてまともに見ることが出来なかった……。
当の本人は私をきっかけに下界や人間のことに興味を抱き、りゅうなりに下界の暮らしを楽しんでいるようで、ホッとした。
中でも『農業』(土いじり)がとても楽しいらしい……。
上界にはもともと農業に適した『土』というものが存在していなかったということもあって……とても珍しいみたい。
近所の農家の方達に教えてもらいながら、野菜の育て方を勉強中。
私は……と、言えば、死なずにすんだだけでなくて、何故か風龍様の力が残っていて、巫女としてのお役目が終えた後……自分の思うように生きたい……と、いう願いが叶い、怪我をした人達の治療をしながら日々忙しくしている。
「楓花、見てくれ! こんなにも大きな大根が出来たぞ‼」
急いで戸口へとりゅうを迎えに出ると……私の目の前に太くて大きな大根を籠から出して見せてくれた。
りゅうは毎日、楽しそうに出かけては帰ってくるなりこうして、その日にあったことを教えてくれる。
「うわっ……」
「すごいであろう‼」
まるで子どものように瞳をキラキラさせてはしゃぐりゅうの姿がとても可愛くて……自然と口許が緩む。
「うん、すごいね! こんな大きな大根見たことがないよ」
「そうであろう、そうであろう」
りゅうは満足げな表情をして、何度もうんうんと頷いた。
「う〜ん、どうやって食べようか……?」
「何でも!」
「なにそれっ! ちゃんと何が食べたいか考えてよっ!」
ぷくっ……と、両頬を膨らませて少し不機嫌な声を上げた途端……
「きゃっ……」
さっと、手にしていた大根を籠の中へと戻して、りゅうが私を抱きしめた……。
「楓花の料理はどれも美味しい故……。そう、怒るでない」
「ーーっ……」
カーーッと、頬が熱を帯びて赤く染まった……。
「……楓花……」
「……っ……」
穏やかな声で名前を呼ばれ、見上げると……透明に近い澄んだ瞳が私を優しく見つめていた。
「愛しておる……楓花」
すーーっと、白く長い指先が私の頬を撫でて、顎をとらえた。
ゆっくり……と、りゅうが距離を縮めてきて……私はそっ……と、瞳を閉じる。
「私も……愛しているわ、りゅう……」
お互いの左薬指に結ばれた紐の深紅色がより美しく輝いたーー……。