……どうしたらいいのだろう……。
私は……どうしたいのだろう……。
弟御様から宝玉の話を聞いてから私はずっーーと、同じ問いを幾度となく問い続けていた……。
風龍様の体調……命思えば……今すぐにでも宝玉を使って、やめさせたい。
けれど……宝玉に願い事をすれば……風龍様は龍の力を失い、ただの人間として生きなければならない……。
龍であった風龍様がただの人間として下界で生活をする……それは、私が想像する以上に過酷なことだろう……。
衣食住ほぼ全てが違うといってもいい。
『住めば都』と、いうことわざがあるけれど……果たして、龍だった風龍様がただの人間として下界での生活を余儀なくされた際、そう思えるのか……。
そもそも、そのことわざ自体、上界に存在しているのかさえ疑わしい……。
簡単には決断出来なかった……。
時間だけが刻、一刻と虚しく過ぎ去ってゆく……。
何も出来ない自分が情けなくて、悔しくて……ううん、何もしない自分だ……。
唇を噛みしめる……。
「ーーっ……」
あまりにも強く唇を噛みしめたため……口の中に鉄の味が広がった……。
風龍様はこの何倍……何十倍……ううん、私が計り知れないの痛みを感じているに違いないのに……。
「……風龍様……」
私の小さな呟きは虚しく部屋の空気と共に溶けた……。
ある日の深夜ーー……。
「うっ……」
うめき声に私は飛び起きた……。
それは微かな声だったけれど……とても苦しそうで、尋常ではないと思った……。
私はすぐさま寝台の側にある台の上に置かれている明かりに火をつけた。
薄暗かった部屋がほんのり明るくなって、より部屋の中の様子が分かるようになった。
隣で寝ている風龍様を見ると……
胸元を両手で抑え、身体を二つに折るように丸め、額には脂汗をかき、顔は真っ青……。
苦しそうに肩で息をしているように見えた……。
痛みが強すぎて上手く呼吸が出来ないのかもしれない……。
呼吸がかなり浅い……。
「だっ、いじょうぶ⁉ しっかりしてっ‼」
「だ……い、じょ……」
かろうじて言葉を声にして発するけれど……それはあまりにも聞き取りづらかった……。
「風龍様っ‼」
風龍様に身を寄せて、声をかける。
「風龍様っ……‼」
どうしよう……。
どうしたらいいの……?
助けを呼ぶ……と、いっても私はこの屋敷から一歩も出ることは出来ない……。
何か、方法は……。
ハッと、した。
……あるじゃない。
一つだけ。
私は苦しみ続ける風龍様の胸元に目をやった。
爪が喰い込む程に強く胸元を掴んでいる手には筋が浮かび上がっていた。
その手をよく見つめて、左薬指にキラッと光を放つ指輪を確認する。
銀色の水晶が嵌め込まれた指輪は干渉縞の紐の上にあった。
良かった……紐の下にあったら、ちょっと取りにくかったかも……。
私は己の手をのばした。
「……ふ、うか……なっ……に、を……」
「風龍様を助ける! 私のせいで苦しんでいるんだよね。ごめんね……ごめんなさい……」
「な、にを……いっ……て、お……る……その、よう……な……こと……」
息も切れ切れに風龍様が言葉を口にする……。
「私は風龍様がこれ以上苦しむ姿を見たくないのっ!」
「……だか、ら……と、いっ……て、なに……をし、ようと……」
その問いには答えなかった……。
ダメって言われるのは分かっていたから……。
私は苦しむ風龍様の左薬指からどうにかして指輪を外そうとした。
風龍様はすぐに私が今から何をしようか気づいたみたいで、苦しみながらも私に指輪を取られぬようにした……。
「風龍様、離して! お願いそれをっ……」
「だ、めだ……。さ、せ……ぬ……」
「風龍様っ……‼」
揉み合う中、さらに風龍様の容態は悪化していった……。
早く、早くしないと、本当に風龍様のが亡くなってしまう……。
ダメ、絶対にダメッ‼
生きて、生き続けて……っ‼
「ーーっ‼」
どうにか風龍様の左薬指から指輪を抜き取り、寝台から抜け出した。
「……ふ、うか……!」
風龍様は苦し見ながらも視線だけはじっと私を見続けていた……。
あっ……。
風龍様の左薬指から抜き取った指輪は淡い光を放ち、本来の水晶の形へと戻り、私の両手におさまった。
……これが……宝玉……。
願いを叶えてくれると、いう……。
誰も試したことがない、もしかしたら逸話かもしれない……。
でも……今はこれに頼るしか、私にはもう手立てがない……。
「や……めろ……やめて……くれ……!」
風龍様が這いずるように身体を動かして何とか私の掌の中にある宝玉を取り返そうとすごくゆっくりな動きだけど……確実に距離を詰めようとしていた……。
「なら……ぬ。そ、れ……だ……けは……‼」
「私は風龍様に生きててほしいの。苦しむ風龍様の姿を見ながら一緒にいたくない……! 一緒に……本当の夫婦として共に生きるのなら……笑っていたい……。共に幸福を感じて過ごしたい……。けれど、それが叶わないのなら……私は……私は、こんな命いらないっ‼」
「……なっ、にを……」
「私の命で風龍様の苦しみがなくなるのなら……私はそれでいいっ‼」
「ふう、か……」
「ごめんね……。宝玉に願い事をしたら……風龍様は龍の力を失って……ただの人間になってしまう……。上界で生活出来なくなる上……慣れない下界での生活を余儀なくされる……。それがどんなにツラいか……きっと、私が思っている以上だよね……。風龍様がツラい思いをすることになるって、分かっているけれど……これ以上私のために苦しみ、命を縮めるくらいなら……そっちの方がまだ、マシかな……って……。だから……」
「いや…だ! ふう……か……をうし、なう……な、んて……。なら……ぬ……。けっ、して……ね、がい……ご……とをしては……」
「ごめんね……。ごめんなさい……」
ツーーゥ。
泣かない……って、泣くもんかって決めていたのに……。
瞳から涙が溢れて、頬を伝った……。
ポタッ……ポタッ……。
一雫、また一雫……と、零れ落ちてゆく……。
「ふ、うか……」
私は瞳から溢れる涙を拭い、笑ってみせた。
上手く笑えてるか、なんて分からないけど……。
私は笑って、風龍様に最後の挨拶をしたかったんだ……。
だって、これまで笑顔で風龍様に笑いかけたことなんてほとんどなかったから……。
「風龍様……今までありがとう」
「……ふ、うか……楓花っ‼」
「お願いっ……!! 宝玉に私が巫女としてのお役目を終えた日に戻して、つつがなく次の巫女を迎え、風龍様の庇護の下、平和がもたらされ、世の中の秩序が保たれ続けていてほしい……」
私は宝玉を胸の中で大切に抱きしめ、そう願ったんだーー……。
私は……どうしたいのだろう……。
弟御様から宝玉の話を聞いてから私はずっーーと、同じ問いを幾度となく問い続けていた……。
風龍様の体調……命思えば……今すぐにでも宝玉を使って、やめさせたい。
けれど……宝玉に願い事をすれば……風龍様は龍の力を失い、ただの人間として生きなければならない……。
龍であった風龍様がただの人間として下界で生活をする……それは、私が想像する以上に過酷なことだろう……。
衣食住ほぼ全てが違うといってもいい。
『住めば都』と、いうことわざがあるけれど……果たして、龍だった風龍様がただの人間として下界での生活を余儀なくされた際、そう思えるのか……。
そもそも、そのことわざ自体、上界に存在しているのかさえ疑わしい……。
簡単には決断出来なかった……。
時間だけが刻、一刻と虚しく過ぎ去ってゆく……。
何も出来ない自分が情けなくて、悔しくて……ううん、何もしない自分だ……。
唇を噛みしめる……。
「ーーっ……」
あまりにも強く唇を噛みしめたため……口の中に鉄の味が広がった……。
風龍様はこの何倍……何十倍……ううん、私が計り知れないの痛みを感じているに違いないのに……。
「……風龍様……」
私の小さな呟きは虚しく部屋の空気と共に溶けた……。
ある日の深夜ーー……。
「うっ……」
うめき声に私は飛び起きた……。
それは微かな声だったけれど……とても苦しそうで、尋常ではないと思った……。
私はすぐさま寝台の側にある台の上に置かれている明かりに火をつけた。
薄暗かった部屋がほんのり明るくなって、より部屋の中の様子が分かるようになった。
隣で寝ている風龍様を見ると……
胸元を両手で抑え、身体を二つに折るように丸め、額には脂汗をかき、顔は真っ青……。
苦しそうに肩で息をしているように見えた……。
痛みが強すぎて上手く呼吸が出来ないのかもしれない……。
呼吸がかなり浅い……。
「だっ、いじょうぶ⁉ しっかりしてっ‼」
「だ……い、じょ……」
かろうじて言葉を声にして発するけれど……それはあまりにも聞き取りづらかった……。
「風龍様っ‼」
風龍様に身を寄せて、声をかける。
「風龍様っ……‼」
どうしよう……。
どうしたらいいの……?
助けを呼ぶ……と、いっても私はこの屋敷から一歩も出ることは出来ない……。
何か、方法は……。
ハッと、した。
……あるじゃない。
一つだけ。
私は苦しみ続ける風龍様の胸元に目をやった。
爪が喰い込む程に強く胸元を掴んでいる手には筋が浮かび上がっていた。
その手をよく見つめて、左薬指にキラッと光を放つ指輪を確認する。
銀色の水晶が嵌め込まれた指輪は干渉縞の紐の上にあった。
良かった……紐の下にあったら、ちょっと取りにくかったかも……。
私は己の手をのばした。
「……ふ、うか……なっ……に、を……」
「風龍様を助ける! 私のせいで苦しんでいるんだよね。ごめんね……ごめんなさい……」
「な、にを……いっ……て、お……る……その、よう……な……こと……」
息も切れ切れに風龍様が言葉を口にする……。
「私は風龍様がこれ以上苦しむ姿を見たくないのっ!」
「……だか、ら……と、いっ……て、なに……をし、ようと……」
その問いには答えなかった……。
ダメって言われるのは分かっていたから……。
私は苦しむ風龍様の左薬指からどうにかして指輪を外そうとした。
風龍様はすぐに私が今から何をしようか気づいたみたいで、苦しみながらも私に指輪を取られぬようにした……。
「風龍様、離して! お願いそれをっ……」
「だ、めだ……。さ、せ……ぬ……」
「風龍様っ……‼」
揉み合う中、さらに風龍様の容態は悪化していった……。
早く、早くしないと、本当に風龍様のが亡くなってしまう……。
ダメ、絶対にダメッ‼
生きて、生き続けて……っ‼
「ーーっ‼」
どうにか風龍様の左薬指から指輪を抜き取り、寝台から抜け出した。
「……ふ、うか……!」
風龍様は苦し見ながらも視線だけはじっと私を見続けていた……。
あっ……。
風龍様の左薬指から抜き取った指輪は淡い光を放ち、本来の水晶の形へと戻り、私の両手におさまった。
……これが……宝玉……。
願いを叶えてくれると、いう……。
誰も試したことがない、もしかしたら逸話かもしれない……。
でも……今はこれに頼るしか、私にはもう手立てがない……。
「や……めろ……やめて……くれ……!」
風龍様が這いずるように身体を動かして何とか私の掌の中にある宝玉を取り返そうとすごくゆっくりな動きだけど……確実に距離を詰めようとしていた……。
「なら……ぬ。そ、れ……だ……けは……‼」
「私は風龍様に生きててほしいの。苦しむ風龍様の姿を見ながら一緒にいたくない……! 一緒に……本当の夫婦として共に生きるのなら……笑っていたい……。共に幸福を感じて過ごしたい……。けれど、それが叶わないのなら……私は……私は、こんな命いらないっ‼」
「……なっ、にを……」
「私の命で風龍様の苦しみがなくなるのなら……私はそれでいいっ‼」
「ふう、か……」
「ごめんね……。宝玉に願い事をしたら……風龍様は龍の力を失って……ただの人間になってしまう……。上界で生活出来なくなる上……慣れない下界での生活を余儀なくされる……。それがどんなにツラいか……きっと、私が思っている以上だよね……。風龍様がツラい思いをすることになるって、分かっているけれど……これ以上私のために苦しみ、命を縮めるくらいなら……そっちの方がまだ、マシかな……って……。だから……」
「いや…だ! ふう……か……をうし、なう……な、んて……。なら……ぬ……。けっ、して……ね、がい……ご……とをしては……」
「ごめんね……。ごめんなさい……」
ツーーゥ。
泣かない……って、泣くもんかって決めていたのに……。
瞳から涙が溢れて、頬を伝った……。
ポタッ……ポタッ……。
一雫、また一雫……と、零れ落ちてゆく……。
「ふ、うか……」
私は瞳から溢れる涙を拭い、笑ってみせた。
上手く笑えてるか、なんて分からないけど……。
私は笑って、風龍様に最後の挨拶をしたかったんだ……。
だって、これまで笑顔で風龍様に笑いかけたことなんてほとんどなかったから……。
「風龍様……今までありがとう」
「……ふ、うか……楓花っ‼」
「お願いっ……!! 宝玉に私が巫女としてのお役目を終えた日に戻して、つつがなく次の巫女を迎え、風龍様の庇護の下、平和がもたらされ、世の中の秩序が保たれ続けていてほしい……」
私は宝玉を胸の中で大切に抱きしめ、そう願ったんだーー……。