風龍様の母親がここ訪れた同日ーー私は風龍様が目の前に現れた瞬間……声を荒げて問い詰めていた……。
「どうして、そんなことを⁉ 私……何も聞いてないっ‼」
「……楓花、どうしたのだ……? 一体、何の話をしておるのか、()にはさっぱり分からぬ……」
困惑する風龍様にここをお義母様が訪れ、風龍様が私を上界(ここ)に連れてきてから、何をされているのか教えてくれた…と、話した。
「ーーそうであったか……母上が……」
独り言を呟くように……風龍様がボソリ……と、言った……。
俯いた風龍様の表情(かお)がどことなく疲れているように見えた……。
それは風龍様の母親から話を聞いて、風龍様自身の身体(からだ)に負担がかかっていることを知ったから……そう、見えてしまったのかもしれない……。
「どうして……そんなことを? 次の巫女を迎え入れず、一人でこの国を守って、私の……人間の生活に合わせて……自分の身体(からだ)にどれだけ負担がかかっているか知った上で、私に黙って続けているなんて……」
「言う必要はないと思ったのでな」
「ーーっ……⁉」
私は風龍様の言葉に唖然としてしまった……。
「……言う必要がない……って……どういうこと⁉」
「……言えば……今のように怒るであろう……?」
「ーーっ……」
図星、だった……。
遅かれ早かれ、風龍様のしていることを知った時点で、きっと私は今のように声を荒げて、問い詰めていた……と、思う……。
()は楓花に不安を抱かせ、心配をかけたくなかった……」
「……そんな……。だからって、言わないなんて……ヒドい……。風龍様……身体(からだ)は大丈夫なの? ツライんじゃない……?」
「……辛い……とな?」
コクッ……。
私は言葉なく頷いた……。
()が辛いのは……楓花を失うこと……」
「えっ……」
「龍と人間とではあまりにも寿命の長さが違う故……先に楓花を失うことは分かっておる……。楓花を失った後も()は風龍としてこの命が尽きるまで生き続けなければならぬ。それがどんなに過酷であるか……想像したくもない……。きっと、耐えきれぬであろうな……」
苦しそうに語る風龍様の表情(かお)がとても痛々しくて……見ていられない……。
()の寿命が少しでも縮まれば……一人で過ごす時間も少なくてすむ。もしかしたら……楓花と共に命が尽きるやもしれぬ……。そうなれば、()としては願ったり叶ったりだ」
「何が願ったり叶ったりよっ! 何を考えているの⁉ 風龍様がいなくなったら……外界に住む人間達が困るどころか、この国自体、風龍様の庇護を受けれなくなるじゃないっ‼ そんなのだめっ! 絶対にだめっ‼」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫なのよっ‼」
「弟がおる。故にこの国も外界に暮らす人間達もつつがなく、続いてゆく」
「じゃ、今すぐに風龍様のお役目を変わってもらったらいいじゃない」
「出来ぬ」
「なんで⁉」
「よほどのことがない限り変われぬ」
「風龍様の命が削られているのに……それって、よほどのことにならないの⁉」
「それは……()が独断で次の巫女を迎え入れなかっただけのこと。()の都合だけで簡単にお役目を変わることは出来ぬ」
「風龍様の身体(からだ)の負担を少しでも減らすために今すぐにでも次の巫女を迎え入れるのは?」
「今すぐには無理だ。巫女を迎え入れるのは十七年に一度。次の巫女を迎え入れるのは早くても、あと十七年後のこと」
「……そ、んな……。もしも……それまでに風龍様命がついてしまったら……?」
「そうなれば、直ちに弟が風龍のお役目を引き継ぐ。まぁ……そのようなことにはならぬ」
「……どうして、言い切れるの⁉ そんなこと分かんないじゃないっ‼」
「……楓花……」
柔らかな微笑みを浮かべて、風龍様が私の名前を優しく呼んだ。
そして……
まるでガラスを扱うように……そーっと、風龍様は私を抱き寄せた……。
()は楓花を残して先にはゆかぬ」
「……っ……」
「そのような哀しい表情(かお)でいてほしくない……。()は誰よりも楓花のことを心より深く愛しておる。愛する者がいつも傍にいて、笑い、幸福(しあわせ)でいてほしい……と、願っておる。それは龍も人間も同じではないのか……?」
私の心を落ち着かせるように……ゆっくりと静かに語りかける風龍様の声はとても心地よくて、じんわりと私の心の中にその優しさが広がってゆく……。
「……約束する。()は絶対に楓花を残して先にはいかぬ。龍は人間よりもずっと丈夫だ。ちょっとやそっとでは体調を崩したりもせぬ。大丈夫だ。楓香よ、()と共に生きようぞ」
風龍様は凛とした表情(かお)で私を真っ直ぐに見つめて言葉を紡ぎ、私を力強く抱きしめたんだーー……。