「……楓花……?」
風龍様の声に私はそっ……と、目を開く……。
するとそこはさっきまでいた部屋ではなかった……。
その部屋は畳が敷かれ、中央に円卓があり、細かな刺繍が施された高級な座布団が置かれていた。
奥には天蓋つきの大きな寝台。
部屋の左右には窓があって、出入口に立って左側に衣類、本や小物等を収納擦るであろう家具がずらりと並び、右側には布を被せた鏡台。
どの家具も気品溢れる落ち着いた色合いで統一されていた。
私の服は巫女服ではなくて……全くの別物。
こんな服着たことがない……。
上着は白地で、袖口が淡い桃色。おへそくらいまでしか丈がなかった。
()はさらりとした手触りの良い上着の袖口と同じ淡い桃色で足元までしっかりと隠れてしまうくらい長い。
もしかしたら……緋袴よりも長いかも……。
全体的にふわっとしている感じだった。
髪の毛は後ろの上部に左右の髪の毛を束ねて一つのお団子に結い上げ、後ろ髪は垂らされていた。
……いつの間に……?
この部屋にいた瞬間にはもう着替えさせられていた……。
これも風龍様の力によるものなのかしら……? と、思った。
「……ここ……は……?」
「上界だ」
「上界⁉」
とてもびっくして思わず叫んでしまった……。
「これ、突然大きな声を出すでないっ!」
「あっ、ごめん……まさか、そんなに簡単に上界に行けるなんて思ってもなかったから……って、きゃっ‼」
今更ながら……私は風龍様に抱かれ、寝台へと腰かけていることに気がついたんだ……。
気づくの遅っ‼
「今度は何だ」
「はっ、なして‼ と、いうか離れてっ‼」
「楓花は本当に恥ずかしがり屋であるな〜。本当の夫婦(めおと)になるのだから、()が好きな時に楓花を抱きしめても良いであろう?」
「良くないっ!」
だってまだ……納得してないんだもの……。
本当の夫婦(めおと)にならなきゃいけないことは分かってるけど……自分が今まで知らなかった掟のことをたくさん話されて気持ちがついていけない……。
ちょっと、気持ちを落ち着かせて考えたい……。
「もー離れてよっ!」
「分かった、分かった。暴れるでない! 落ちて怪我をするぞっ‼」
風龍様は渋々といった感じで、私から離れていった。
「では、ここで話の続きをしようぞ」
円卓の側を指で指し示して、私に座るよう促した。
「この部屋……と、いうかこの屋敷が()と楓花の住まいだ。今、楓花が来ている服は上界で着ておる女性用服だ」
「へぇ……服も上界と下界とでは随分と違うのね」
「そうだな。国同士がよほどのことがない限り干渉しないように、我ら龍もまた、人間の生活には干渉しない。だから独自の文化が生まれたのであろう」
「なるほどね」
「楓花には悪いが、()は、用がある故、しばしの間一人にしてしまうがよいか?」
申し訳なさそうに風龍様がボソッ……と、呟いた。
「うん。大丈夫」
「もし何か困ったことがあれば……()を呼んでほしい。何処にいようが楓花の声は聞き逃さぬ故……」
「分かった」
私がコクッ……と、頷くと風龍様は風が通り過ぎるようにすーーっといなくなってしまったーー……。