灯澄、燈燕と比べくもない。実戦から遠ざかっていた陽織は二人より随分劣る――そのことは誰よりも陽織自身が理解していた。だからこそ、自らの戦いの術も知っている。そして、自分の役割も。
癒滅が術を使えない自身が今までどう戦ってきたか――元より、攻めの戦いはできない。周囲に合わせ受けに徹する、それしかなかった。周りと戦いの呼吸を合わせ間をつくる。
今、この時でもそれは同じ。
荒ぶ日愛の天狗風に、灯澄の刀が舞い、燈燕の焔が踊る中で陽織は一定の距離を保ち地に足を滑らせ動き続けた。無理に踏み込むことはしない。自分の役目は、二人の動きが鈍った時だ。
「アアアァァァアアッッッ――!!」
日愛の声に激しい疾風が吹き荒れた。眼に見えない風であっても、肌に触れる圧だけで日愛の力が強まっていることは感じていた。
現に――
「っ――!」
灯澄と燈燕は風を完全に捌くことができず、正面から受け足を止めた。吹き飛ばされないように耐えることしかできず、全身の傷を深くしていく。
その一瞬の時。動きの止まった二人に、日愛は白き翼を靡かせた。灯澄と燈燕の間を抜け、日向へと向かう――が、
(――日愛)
ザッと踏みとどまり、日愛の前に陽織が立ち塞がった。可愛い幼子――その愛らしさは変わらず、こうして目の前で会うのも久しいこと。
(だからといって――)
心で名を呼ぶことだけで感傷を振り切り、陽織は右手を軽く前へと構え一気に踏み込んだ。懐に入ろうとする陽織に日愛は動きを止め、翼を一度だけ靡かせる。
――ィィン、と風一陣。
耳をかすめる音律と共に、凪の刃が陽織の身を切り刻んだ。痛みに一瞬眼が眩む……が、陽織は奥歯を噛み締め揺れる身体を持ちこたえた。
元より力で敵わないことは知っている。知っているからこそ、日愛に近づき風の流れを避けていた。日愛が中心であれば、力は読みやすい。