日愛、灯澄、燈燕――三人の戦う姿に日向は動くことができなかった。日愛の向かう方向が分かっているからこそ対応もできている。今動けば、灯澄や燈燕に負担がかかってしまう。
 そして、それは自分が日愛に向かっていっても一緒だった。灯澄と飛燕は護ろうと必死になることは間違いない。声で止めても駄目だった。

 だったら――自分はどうするか。

「――日向」

 最中、ふいに呼びかけられ日向は視線を向けた。横へと近づいてきていた陽織は日向へと静かに伝える。

「私も灯澄さんと燈燕さんの間に入って日愛を止めます。あなたは整えておきなさい」
「お母さん……」

 ――違う、と日向は内で呟いていた。自身の心が、いや、日愛が教えてくれている。「違う」と。

「機会は必ずきます。いいですね」
「駄目です」
「日向?」

 常とは違う、初めて聞くような日向の強き言葉に、陽織は驚き顔を見つめた。

「わたしが行きます。日愛はわたしを呼んでいるんです」

 日向の心の内を現す強き言葉と瞳――それは信念の証だった。日向の話したいことは陽織もよくよくわかっていた。日向は日愛を救いにきたのだ。自分が戦わないと、という思いもあって当然だった。
 だが、

「それは分かっています。でも、今は危険です。あなたは待ちなさい」
「違うんです!」

 母の言葉に、日向は声を上げ否定した。陽織の腕を掴み、精一杯伝える。自分の内のものを、真実のものを。

「『戦って』は駄目なんです」
「…………」

 自分の心底が伝わったのだろうか――伝わってほしいと願い、日向は陽織の瞳を見つめた。
 だけれど、

「あなたは待ちなさい。私たちが機会を作ります」

 問答をしている時間はない。陽織は掴まれた腕に手を沿え外すと、日向に一言告げ、すぐに走り出した。

「お母さんっ!」

 制止する日向の声を背中で聞きながら、陽織は日愛へと向かっていった。
 日向の「戦ってはいけない」という気持ちは分かっていた。陽織としても、日愛とは争いたくない。だが、今それは許されなかった。何より、日向を護るために。

 ――日向の気持ちを、その真実なるものを陽織は分かっていない。それでも、陽織は日愛に向かっていった。