「――――」
灯澄は内の逡巡を振りほどき、掴んだ腕を引いた。このまま腕を絡め、身体の動きを操ろうとする。身体を交わらせた格闘であれば日愛に対抗でき、僅かながらでも自由が奪えるはずだった。
腕を引き寄せ、こちらの懐に呼び込む。気配で燈燕が近づいてくるのも感じていた。少しでも間を空けられれば、場を落ち着かせることができれば、日向や陽織が入り込む余地もできるだろう――
そんな考えを灯澄が内に浮かべた、その瞬間だった。
「――――」
無音の中、――ヒュオ、という音色が耳を掠めたと同時、かまいたちとなった旋風が灯澄の身を切り刻み、燈燕を再び弾き飛ばした。
周囲の木々をも斬り倒し、葉を散り舞い上がらせ――そして、音の戻りと同時、一定の間を置いてようやくにして風の刃は静まり、きざまれた木々は地に倒れる。
「灯澄さんっ、燈燕さんっ!!」
「――来るな、日向っ!!」
距離があったおかげだろう。日向の声に、無事に安心を覚えながら、切り刻まれ血を滴らせながらも膝を付き、灯澄は声を絞り出した。
自分や燈燕ならまだいい。まだ耐えられる。だが、これが日向や陽織であればどうなっていたか。そのことが内に浮かび背筋に冷たいものが流れる。危険な場へと安易に入れるわけにはいかない。
(――しかし)
顔を上げ、灯澄は日愛を見つめた。力が上がっているとは感じていたが、これほどとは思わなかった。このままでは、こちらも本気を出さなければやられてしまう。
「…………」
無言で見下ろし、そして、すぐに視線を外し、日愛は再び日向へと向かおうと身体を向ける。しかし、日愛が動く前に灯澄は立ち上がり動きを制した。
そんな灯澄の動きに苛立ちが募ったのか、日愛は腕を振り上げる。その意に従うように空気は流れ、刃と成って巻き起こった。
迫る風――だが、灯澄もまた腕を振りぬいた。灯澄を切り裂こうとした刃は、一振りと共に霧散する。灯澄の手、そこにはどこから現したものか一太刀の刀が握られていた。