「アァアアアアアッッ――――!!」

 雄叫びを上げ、日愛はこちらへと向かってきた。どこへ来るか――などと考えるまでもない。日愛の狙いは、いや、日愛が求めるは日向だけ。

 ザッ――!

 灯澄と燈燕は同時に地を蹴り動き出していた。声でいわずとも互いの考えは分かっている。日愛の動きを止めるため、左右から飛び掛る。

「駄目ですっ!!」

 止める日向の声は聞かず、翻る翼と共に腕を振りぬき放たれた日愛の旋風に、灯澄と燈燕は衣服を切り裂かれ頬に傷をつけながらも更に踏み込んだ。
 日愛の見た目は幼い身だが力では敵わないことは知っている。力で押さえ込もうとしても無理だろう。だからこそ、技で抑える。唯一、日愛に対抗できるとすれば戦いの経験だけだ。

「アアアアァァッ!!!

 迫る二人に、日愛は咆哮し力を解き放つ。風が壁となり、衝撃が襲う。

「ぐっ――!!」

 避けきることができず燈燕が弾き飛ばされる。その姿を視線の隅で捉えつつ、目に見えぬ空気の塊に肩を弾かれながらも何とか身体を耐え灯澄は尚も足を踏み出した。
 日愛は自分よりも高い位置に居るが迂闊に飛ぶことはできない。飛べばたちまち旋風に巻き込まれ吹き飛ばされるだろう。飛び上がるのは日愛に近接し懐に入る時だけ。懐に入り動きを僅かでも鈍らせれば良かった。遅れてすぐに燈燕も戦いに加わってくれることは分かっている。

 近づく灯澄に日愛は構わず翼を靡かせた。日向以外は目に入っていないように、前へと進んでいく。そんな日愛に灯澄は手を伸ばし腕を掴んだ。
 灯澄に伝わる、幼子の小さく細い腕と温もり。