「童女、その名を名乗って我らの所に赴いたという事は、どういうことになるかは分かっておろう」
「はい」
「ならばよかろう。これ以上の話は無用」

 紅い装束の女の言葉に、蒼い装束の女も静かに頷く。
 性として、この少女を見極めたいという欲求がでるが、すぐに「見極めたところで……」と蒼い装束の女は思い直した。見極めたところで、殺すか殺されるかしかない。
 無論、殺されるつもりもないが……

(細い身体だな、一薙ぎで引き裂けそうだ)

 殺す気持ちも削がれてきている。だからだろうか、紅い装束の女も機を計りかねていた。

(追い返すだけでもよいか。例え十一家の者でも、童に手をかけるのは忍びない)

 ザッ――と蒼い装束の女は一歩踏み出した。それだけで、紅い装束の女は全てを理解する。
 本来ならば、戦いにおいて一対一というものに拘る必要はない。もちろん戦いの作法はあるが、勝たねばならぬ戦いで作法を守れば負けにつながることもある。そして、負けるという事は死ぬということだ。
 甘いことを言うつもりもない。が、今回は蒼い装束の女一人で戦うことにした。童女相手ならば一人で十分というのもあったし、二人で相手というのは逆に戦いを鈍くするようにも思えたからだ。
 紅い装束の女はすでに戦いに置いて一歩退いてしまっている。万が一を恐れ、先に蒼い装束の女は踏み出した。そして、その事も紅い装束の女は理解していた。

「さあ、参ろうか」
「いつでも」

 日和は応じ、サッと袖を靡かせた。右足を前に、左足を後ろにし、軽く両手を上げる。かといって、拳を握り締めてもいなかったし、身体に力をいれてもいなかった。限りなく自然に、柔らかい構えを取る。
 その姿に、つい、

(ほう)

 と、蒼い装束の女は内で唸った。悪癖とは分かっていても身体より先に頭が動いてしまう。
 柔らかい――構えも、その発する気配も、指先一つ一つの動きまでもが小春のように柔らかく穏やかだった。しかし、そのことがまた赤子のような印象を際立たせてしまっているのは戦いにおいて有利なのか不利なのかは難しい。
 無手ということで、体術に自信があるだろうということは分かっていた。が、自信があるといっても攻めの体術ではないだろう。受けに徹する守りの体術に違いない。