――しかし、

「癒滅が術の戦い方を覚えろ。力の使い方を覚えろ。勢いを殺し、術によって抑える」

 言葉をかけて伝わっているかどうか。もはや日向は立っているだけで精一杯だった。そして、これだけ打ち込まれても鋭さも、怒りも無い。

「力では敵わない。相手を支配しようとするな。押さえ込もうなどとは夢にも思うな。受け、捌き、流せ」
「……は……い」

 澄んだ瞳。闘気も殺気もない。真っ直ぐ見つめ、こちらを尊敬し訓えを全て受けようとしている視線。弟子であるならば、これほど良い弟子はいないだろう。だが、これは道場の試合ではない。命を懸けた死合なのだ。
 修練を始めてから二日。残りは一日。だが、日向に傷をつけたまま戦いに赴くわけにもいかない。今日の仕上げが大事となった。
 果たして――本当に戦えるかどうか。信念するからこそ、考える。判断するなら今日だろう。

(戦えるか――)

 術を使えていない。萎れている花を再び咲かすくらいでは術を使えているとはいえない。戦いの中で使えなければ意味が無い。
 何より、日向は癒滅の「滅」の力を使うことに抵抗があった。性格によるものだろうが、それでは戦えない。いや、そもそも修練とはいえこうして対していても戦う気を日向は持ってはいなかった。

(優しすぎる)

 灯澄は内で――苛立ちとともに吐き捨てた。その性格のため、あやつは――こやつの母は――

(二度と、あのようなことを起こしてはならぬ)

 戦えなければ、甘さを捨てることができなければ、もうこれまでだ。
 死なせるわけにはいかぬ。たとえ、他の誰を犠牲にしても。日愛が目覚め、多くの人や妖が死んだとしても。