才はあるか、と問われれば今だ判断は難しかった。煌めくものはある。確かにあるが、図抜けるかどうかは分からない。
無理もない、とは思う。急に単なる運動ではない「戦い」の修練をしているのだ。戸惑いがあっても、身体が追いついてこなくとも仕方のないことだった。
だからといって、体力をつけるための基礎訓練をしている時間もない。何より、あまり意味がない。いくら体力がある者でも、実戦となれば精神を削られ体力を奪われ動けなくなるということはよくあった。
訓練と実戦はまるで違う。実戦の経験をさせるのが一番早いが、その時間すらもない。付け焼刃になることは否めない。
「逃げずに捌け」
と言ったのは身体を慣れさせるためだった。打たれ、転ばされることを何度も何度も体験してこそ、やっと身体が慣れてくる。目や神経に刻み、感覚を覚えさせることが大事だった。
「身体を動かすな。足を止めておけ」
右の打ち込みに、日向はビクリと身体が逃げそうになるのを何とか抑える。だが、身体を動かなくさせることだけで精一杯だった。打ち込みの速さにはついていけず、頬、肩、胸、脇、鳩尾、腕、足――と、避けることも捌くこともできずにただ打たれ続けた。
一度で倒れないように、もちろん手加減はしている。倒れさせ、気絶させてしまう時間もおしい。
「…………」
息を切らせ打たれ続ける日向の視線。真剣な表情だが鋭さは……まだない。切羽詰まらせてもよくないと分かっている。が、危機感は持たさなければいけない。それほど刻は迫っていた。
――ダンッ
踏み込み、胸へと掌底を打ち込む。捌くことができず日向は真正面から受け、衝撃と痛さに身体を揺らめかせた。足が震え膝が崩れそうになるのを身体を折り重心を前へかけることで耐える。
「倒れるな」
「…………は、い……」
気を失いそうになりながらも日向は顔を上げ、それでも返事を返した。
声を出すことがまだできる。まだそれだけの余裕はある。灯澄は続けた。顔に拳を放ち、肩、胸、腕と打ち付けていく。