――早朝、やっと山が白み始めた頃、

「…………」

 灯澄は眠りから覚めると、布団をたたみ、素早く身支度を整えた。
 隣では燈燕が今だ眠っている。燈燕は時間にゆるい。目覚めるのは遅いだろう。掛け布団はめくれ着物もはだけ、あわれもない姿となっているが気にせず灯澄は部屋を出た。
 襖一枚を隔てた隣の部屋では、日向と陽織が眠っている。平常でもドタドタと音を出すことはないが、灯澄はなお気にかけて静かに玄関へと歩いていった。眠りを起こすのも可哀想と思い――

(……眠りを起こす、か)

 ふと、灯澄は内で呟いていた。現に、今から我らが子、日愛が起きるかどうかを確かめに行こうとしている。そのことに、灯澄は複雑な情が湧く。
 起きて貰わねば困るが、寝起きは果たして……。いや、戦うことが必ずならば、寝たままのほうがまだしも幸せかもしれない。しかし、眠りを起こすは可哀想だとしても、眠ったままにはできない。起きることもまた確実だった。
 起きてほしいと願いながらも、起きれば戦いになるとも悟り、眠ったままが幸せと思っても、起きるは現実だと知る。

「…………」

 灯澄は外に出た。霧かかる朝靄の中、子の寝顔を見るために森へと歩み、その姿を消す。
 眠った幼子の顔を可愛いと思い、起こすを可哀想と思う。だけれど、起きて笑顔を見せてほしいとも願い、抱き触れたいという情も湧く。それもまた母の念か――などと、複雑な感情を内で現しながら。