「天狗といっても、顔が赤いわけでもなく、鼻が長くも無い。女人の天狗は麗しい天女のような姿だと伝えられる通り、日愛も可愛い子だ。お前と変わらぬくらいにな」
「いえ、わたしはそんな……でも、そんなに愛らしい子ならわたしも見てみたいです。名も似ていますし」
おどけて口を挟む燈燕に、日向は柔らかく首を振ってからニコリと微笑んだ。その花が咲いたような微笑に飛燕は苦笑する。
「ふむ……やはりお前は女にしか見えぬな」
「?」
燈燕の言葉の意味を咄嗟に悟りかねたのか首を傾げる日向。そんな燈燕は相手にせず、灯澄は淡々と口を開いた。和むのもいいが、状況はあまり良くは無い。
「ともあれ、時間はない。正確な刻は、明日、我らが子の寝顔を見てみぬと分からぬが……二十日、十日……いや、もっと少ないかもしれぬ」
「寝顔……日愛は眠っているのですね」
「閉じられた結びの神域。日愛は、その中で眠っている。その結びが解かれる正確な時は我らにも分からない。こちらが結びを切り目覚めさせることはもちろんできるが、それがすぐにできないことは……分かっているな」
「はい」
日向は重く頷いた。その意はよくよく承知している。灯澄と対したからこそ分かる。自身の未熟――今はまだ幼き子を、日愛を自分が助けるには足りないであろうことは。そして、だからこそ修練の時が必要なことも。
だけれど、
「灯澄さん、会うだけもできませんか?」
いづれ会わなければならないとは分かっていても、日向は灯澄にそうお願いしていた。幼子と聞いて苦しい気持ちも確かにあるが、対するならば尚更、やはり一目は見て置きたい。何より、純粋に会いたかった。
そんな日向の気持ちは灯澄も十分に分かっている。だが、そうは分かっていても灯澄は静かに否定した。
「気持ちは分かる。が、それは辞めておいたほうがいいだろう。お前の気に触れて、その場で目覚めぬとも限らないからな」
「……そうですか」
「残念な顔をするな。必ず会って貰わねばならない、近いうちに必ずな。その為に、お前を連れてきた」
少しだけ気落ちする日向に話を続け、そして、言い聞かせるように灯澄は凛と視線を向けた。