「お前は会っている。といっても記憶はなかろう、会ったのはお前が赤子の時だからな。とはいえ、あやつも赤子のようなものだったが」
続ける灯澄の言葉。日向は話を聞き、まず自分が会っていたことに驚いた。以前、「一族の誓約」と灯澄は話していたが、それは遥かな昔のことではなく自分が産まれてからの誓約だったことを知ったからだった。そして、もう一つのことも知る。やはり灯澄と燈燕には幼き日に会っていたことを。
「先に言っておくが、妖の姿とお前たち人間が考える歳はまったく違う。元々の存在が違うからな。妖も歳を重ねるが、それがそのまま姿の老いには繋がらぬ。百年経っても幼いままという奴もいる。経典でいう、仏や諸天もそうだろう。あの者たちに歳はない。存在の意味によって姿が決まる」
「我らも、見た目はこのように若いが歳月でいえばそれなりに経っている。とはいえ、妖でいえば幼子のようなものかもしれぬが」
付け加えて話す燈燕の間に、灯澄は酒に唇を触れさせた。一見無駄な話にも思えるが、姿の話はしなければならないことだった。日向が目にした時、その姿に初めは驚くかもしれない。それは戦いを鈍らせる恐れもある。その為には伝えねばならないことだ。
上手い酒を飲むのは今だ先――いや、結果如何であれば不味くもなる。一生、不味い酒を飲むことになるか、はたまた、酒自体が飲めなくなるか。灯澄は一拍空け、続けた。
「今の話のように、妖の歳月と姿は関係がない。お前が対する者の姿は幼く、童女のような姿をしているが見た目だけで判断はするな」
「童女……女の子なのですか」
「ああ、幼き女の子だ。その者の、我らが子の名は日愛(ひな)。幼き天狗の子だ」
「天狗の子……日愛」
正確にいえば名付けたのは日向の母。考えてみれば日向と日愛は姉妹、いや、兄妹、又は、姉弟のような関係かも知れない、などとふと灯澄は頭に浮かぶ。が、それは話さなかった――話せば日向の迷いが深くなるだろう。