――山頂より少し前。
突然、斜面は途切れ木々がなくなり視界が広がった。とはいえ人の手が加えられたものではない。近くに水が流れているのか大きな岩が無造作に転がり、その岩石によって木が育たなかったのだろう。
葉の傘がなくなった陽の光が差し込む平地。白む視界に目を細めた視線の先――そのモノは岩に腰をかけそこに居た。
「名は?」
そのモノ――二人居る内の一人。蒼い装束を纏った女は、突如現れた姫巫女のような少女に驚くことなく静かに問いかけた。
とはいえ、問うても答えることはないことは知っている。物見遊山ではまずないだろう。路を外れた森の中、わざわざ迷うような木々の隙間を歩き進め、こんな所まで来る人間はそうはいない。何よりこちらも事前に知っていた。真っ直ぐにこちらへと近づいてくる少女を。
そして、我らを見ても少女は驚いてもいなかった。つまりは、我らが居ることを知っていてここへ来たことになる。我らに用がある人間――それは、つまりは敵だということだ。だからこそ、名を問うても答えないだろう。
十一家の者ならば、名を聞けばその能力をも教えることとなる。実力の利があるのならともかく、互いに何も知らない状態で手の内を明かすのは得策ではない。問うたのも、戦いの機を計るためだ。
だが、
「月隠日和といいます」
と少女――日和は答えふわりと微笑んだ。
(この童女は相当な馬鹿か、それとも……相当な器か)
蒼い装束の女はそう思い、
(どうにもやりにくいな)
そのモノ、二人の内のもう一人――紅い装束の女は顔をしかめた。
とはいえ、戦わないわけにはいかないのだ。本当に物見遊山で偶然に迷い込んだのなら、あるいは見逃しても良かったのだろうが、相手は明らかに自分たちに用があって来ている。ならば、戦うしかない。