元より着いたのは夕暮れ。しばらくすればすぐに陽は落ち、月明かりが差し込む時間となる。
 電気も通っていない山奥の小さな家。囲炉裏に火を付けるのも、川から水を汲んでくるのも日向にとっては初めてのこと。そうして瞬く間に時は過ぎ、夕食が出来上がったのは家に着いてから三時間の後だった。

 目の前に並ぶ山菜料理。山菜汁に煮物と白米、和え物と漬物も添えられている。肉や魚はなく決して豪華とはいえないが、日向にとっては十分な料理だった。今日一日山を歩き続けた身体がほっと落ち着く温かみのある味――というのも当然で、並べられている料理は全て陽織と日向が作ったものだ。灯澄も燈燕もできないことはないがあまり得意でもないらしく、それで陽織と日向が担当することに決まった。

「野菜や米も仲間が用意してくれたものだ。我らでも腹は減るからな」
「妖もご飯を食べるのですか?」
「もちろん食べる。だが、食べなくとも死ぬことはない。万象に宿り、共に在る者だからな」

 そう話しつつ燈燕は酒の入ったお猪口を置き、煮物に箸を伸ばした。筍を一つ摘み口にする。

「うん、上手い」
「よかった。いつも薄味にしているので口に合うかと心配したのですが」
「いや、これくらいでいい。懐かしい味だな」

 燈燕の言葉にに日向は微笑んだ。聞けば、昔日向の家の料理を食べていたらしい。それを聞き、懐かしい味といわれ日向も何だか嬉しくなった。
 初めは燈燕が日向に酒を勧めるという一幕もあったのだが、ともあれ和やかに食事は進んでいった。日向もすっかり灯澄と燈燕に打ち解け、自然と会話も弾んでいく。その中で――どうしてもというべきか――誰とは無くこれからの話へと流れていった。日向がこれから会う者、救わねば成らぬ妖の話へと。

「――そうだな、もう話さねばなるまいな。ここへ来た以上は」

 灯澄は酒を置き、最初にそう切り出した。