「誰もいないのですね」
「ああ、いない。話したように、我らは孤独ではない。お前の一族も敵ではない。だが、今は姿を見せないようにしている」
「どうしてですか?」
「まだ、早いからだ。会うとすれば、お前が願いを成した後、我らが子を助けてから。そのほうが良いと思っている……お互いのために」

 再び問いかけた日向に、灯澄は瞳の奥に鋭さを覗かせ冷たさを込めて口を開いた。その話はこれまでというように、深く関わらせないようにして。

「そうですね……分かりました」

 母である陽織も、灯澄も燈燕も自分のためを思って深く話さないようにしていることは知っていた。何より、今の自分は何事も成してはおらず、全ての話を聞いてもいなかった。それで他の妖と会うのはまだ早いというのだろう。その事を理解し、日向は――少しの寂しさは内に閉じ込めて――頷き微笑んだ。

「まあ、難しい話は後でもよかろう。さあ、入ろう。腹もすいた」

 日向の気持ちを感じてか燈燕は明るくそう話し、いち早く草鞋を脱ぎ家へと上がった。