そうして、登り続けること四時間の後。
「――――」
紅く染め、少しだけ汗した頬に涼やかな風と鮮やかな薄紅色の一片が触れ日向は顔を上げた。
橙の空。目に見える先、木々が無くなり開けた空から目に眩しい夕暮れの陽が溢れていた。そこから、まるで自分たちを迎えるように一片二片と舞い踊ってくる桜ノ花弁。
「さあ、ここだ。ここが我らの家となる」
少し遅咲きの山桜――まるで「あなたに微笑む」との花言葉そのままのように優しく包まれ。
視界が開けたその向こう。満開となる桜の木々の隣にひっそりと在る家一軒。それを目にし、灯澄は目的の場に着いたことを告げ日向へと手を差し伸べた。
(きれい――)
灯澄と燈燕に導かれ訪れた桜の家――まず日向が目に魅かれたのは山桜の見事さだった。自然そのものの姿はやはり町のものとは違い凛と力強く、鮮やかに艶やかに咲き誇っている。夕陽の紅に染められた橙の空に浮かぶ薄紅の花弁は本当に美しく、優しい温もりを感じさせてくれる。だからだろうか。
「どなたか住まわれているのですか?」
古い木造の平屋の家。だが、閑散としてなく人の温もりが感じられ、日向は思わずそう問いかけていた。灯澄と燈燕が住んでいたというのなら人の温もりがあって当然なのだろうが、日向にはそれだけのようには感じられなかったのだ。すぐ前まで誰かが居たような、そんな気配が在る。
「隠れる身とはいえ、我らは孤独ではない。それに――お前の一族は妖の敵ではなかった」
それだけを答え、灯澄は先にたって玄関の引戸を開ける。
薄暗い玄関に陽の閃光が差し込む。浮かび上がる屋内。そこは綺麗に掃除され、整えられていた。
板張りの廊下は拭かれ、玄関からの風が入っても埃すら浮かばない。玄関に近づき、屋内からくる少し涼やかな澄んだ空気が肌に触れた。きちんと風を通し、掃除していなければこうはならないだろう。つまりは、家はやはり無人ではなく毎日誰かが手をかけているということだった。
でも――と思い、日向は屋内を見渡した。気配は感じても姿は見えず。玄関から入った四人以外に人の影はない。