「気持ちとしては、もっと早くにお前……日向に会いたかった。だが、我らもまた迂闊には動けなかったのだ。一つは我が子を護るため。そして、もう一つは我らが居ることを気取られぬためにな。我らの居場所が分かれば、子に害が及ぶ。だから、表に出ることを避けていた。そして、同時にお前を早くに連れてくることもできなかった」
「……それは?」
一度息を飲み込み、灯澄の背に日向は問いかけた。聞く礼として反応を返そうとする日向のその声に「真面目な子」と改めて思いつつ、
「身を隠しているお前が姿を消したと分かれば、探りにくる奴がいるかもしれん。今は日々を見張っているということはないだろうが、一月も二月も空けることになれば果たしてどうなるか。相手のあることだ、甘く考えればそれで終わる。もし気付かれれば、我らだけでなくお前にも害が向くことになる。だから、お前を早くに連れ出し鍛えることもできなかった」
灯澄はやはり振り返ることなくそう答え、やや暗い気持ちを内に湧かせ付け加えた。
「隠れる身としては仕様がなかった。我らも、お前も」
「…………」
息を切らせて日向は頷き、僅かに瞳を落とした。再度、「自分」というものを理解する。隠れねばならぬ身を、そうしなければ害が及ぶという自分自身を。
「……おい、灯澄」
「なんだ?」
「せっかちなのは直らんな。話すはいいが、こんな様子じゃあまり意味は無かろうよ」
暗くなった空気を察してか、燈燕は呆れたように灯澄に笑った。灯澄の性格はよく知っている。だからこそ、それを含めて苦笑した。
「すまないな。話すだけなら今の内に済ませてしまおうと思ったのだが……確かに、伝わらなければ意味はないか」
「そんなことはありません」
すぐに否定する日向。灯澄も日向であれば伝わっていることは知っていたし、伝わると知っていたからこそ話したのだが、確かに急すぎたとも反省し、
「あと四時間ほど歩けば目的の場に着く。遅れないように付いて来い」
灯澄は振り返り、微笑みと共に日向へ声をかけ、そして、少しだけ歩みを緩めて先を進みだした。