「元より今回の命は無謀すぎます。当家を除いた十家の強者が揃ったとしても無事に果たせるかどうか……それを、日和様お一人でなどと」

 その事に関しても陽織はぐっと奥歯を噛み締めた。「一人」と命じられた際、日和は一言も反することなく了承したのだ。断れば他の者に害が及ぶ、それを分かっているからこそ反するような言葉を一言も洩らさなかった。
 そのことは陽織も分かっている。日和の気持ちは十二分に承知しているのだ。だとしても、それでも結果は変わりない。当主たる日和に万が一があれば、そこで当家は終わりとなる。

「ここ数ヶ月に及ぶ無理難題、あまりのなさりようではありませんか。上首の意のするところは明らかです。上首は我が家を滅ぼ――」
「陽織」

 日和は普段と変わらぬ優しい口調で――だがしかし、その内に強さを込めて陽織の言葉を止めた。

「しかし、日和様っ」
「駄目だよ、陽織ちゃん」

 陽織の気持ちはよく分かっている。幼き日より常に離れず共にいたのだ。言葉で表さずともその心は十分に知れた。だからこそ日和はニコリと微笑み、幼き時と同じ口調で嗜めお礼を言った。

「ありがとう。分かっています」

 分かっています――それは陽織も同じだった。そして、『だからこそ』陽織もなお言葉を次いだ。