短い髪の女性と、長い髪の女性。顔立ちまでは分からないが、その瞳に淡い光が一瞬宿り――
　そして、日向は鋭く息を吸い、瞬時に身体を動かしていた。

　ザッ――

　向かってくる長い髪の女。踏み込む足に合わせて、日向は両手で鞄を持ち胸へと上げた。長い髪の女の掌底は鞄に突き刺さり、日向は鈍い衝撃と共に後ろへと一歩下がる。
　自分の体術に過信していたわけではない。対しようと思っていたわけではなかった。逃げるべきだと感じている。だが、最初の判断で誤ってしまっていた。何故か、敵ではないと感じたのだ。

　ここまで近接されるともう逃げられない。背中を見せれば終わりだった。
　刹那の中、すぐにそう判断し、長い髪の女が二手目を打ち込んでくる前に日向は体勢を整えた。相手は待ってはくれない。一瞬の判断が命取りになる。といっても、相手は命を狙っているようにも思えなかったのだけれど――
　鞄を弾こうと腕を振り上げる女の動きに合わせて鞄を右手だけで持ち直し、腕の振りをすかすと共に右足を後ろに引き、空いた左手を前に向ける。動くのに鞄は邪魔にしかならないが、置くのはまだ後にした。使い方次第では、一瞬の間を空ける大事な防御にもなる。

　逃げない日向に女は再び打ち込んだ。首に向けての右の貫手。稽古でしている組み手とは段違いで速かったが、日向は左手で捌きながら身体も左に流した。真正面から打ち合うことはせず、女の右側へ、相手の打ち難い場所へと身体を移動させる。