こちらを心配させないようにした日向の心遣いだということはすぐに察せられた。だけれど、日咲にとってはその気持ちが悲しい。そして、再び胸に浮かぶ自分への疑問。果たして自分は日向のことを本当に知っていたのか――
「じゃあね、日咲ちゃん」
別れを言って後ろを向こうとする日向に、日咲は思わず手を伸ばしていた。
「ひなちゃんっ――」
腕を掴み、振り返った日向と視線が合う。
少し驚いたような瞳――だけれど、すぐにいつものように暖かく柔らかい表情に戻ると、僅かに首を傾げて日咲を見つめた。
「どうしたの?」
どこまでも真っ直ぐで純粋で少しの曇りもない瞳。わたしの全てを受け入れ、信じてくれている日向の視線――
そんな日向に心に固まっていた何かが溶け、日咲は掴んでいた手をソッと放していた。
「ううん……また明日ね、ひなちゃん」
自分を信じてくれているのなら、わたしも信じてみようと思った。だから一つだけ、たった一つだけのささやかな願いを込めて、明日の約束をする。明日、こうして一緒に歩けることを願って。
「うん」
日向はニコリと微笑んで、放した日咲の手に触れた。互いの手が触れた温もり、それを確かめ合って、そして、日咲に笑顔と元気が戻ったことも確認して、日向は傍を離れた。
「またね、日咲ちゃん」
「うん、またね」
軽く手を振って、日向は歩き出した。その後姿を少しだけ見つめて日咲も歩き出す。
別々の道を歩いていく二人――明日の約束を信じ、互いの手の温もりだけを胸に収め日咲は夕日が射す道に自身の影を伸ばして歩いていった。