「頑張ってね、ひなちゃん」
――だけれど、突然起こった不思議な気持ちに胸の中で首を振り、日咲はいつものように笑顔で応援した。
「うん、頑張るね」
足を止める日向に、一歩遅れて日咲も立ち止まった。二人で急に止まったのは何かがあったわけではない。ここが分かれるいつもの場所だったからだ。
こちらへと身体を向ける日向は自然でいつもの通りで――それは当たり前の事だと分かっていても日咲はまた寂しく思ってしまった。ここでお別れをいって、別の道を行く。それが日常で普通の事。変わらない毎日。
――ひなちゃんはどう思っているのだろう?
そんな想いが胸に浮かんだ。わたしのことをどう考えているのだろう――聞きたいといつも思い、でも聞いてしまったら変に思われないかと迷って、恥ずかしさに口を噤む。だから、いつものように聞くことはできないけれど、代わりに別のことを口にした。これからも一緒だよね、ということを確認したくて、日咲は勇気を振り絞って一歩踏み出した。
「ひなちゃん……もし、進路のことで悩んでいることがあったら何でもわたしに話してね。わたし、相談に乗るから」
「ありがとう、日咲ちゃん。きちんと決めたらちゃんと話すね」
「うん、約束だよ」
微笑む日向に、締め付けられる胸と揺れる心を押し隠して、何とか口を開き日咲は微笑みを返した。
きちんと決めたら――それは、日向が迷っているということ。つまり進級以外を考えているという意味だった。そして、「決めたらちゃんと話す」ということは、日咲が日向の気持ちを知るのは日向が決意を固めた後となる。日向が決意したことであれば、日咲は止められない。