「――必ず」
静かに口を開く。迷いや覚悟などと、そんなことは心の内に些かも浮かばなかった。
「必ずやってみせます。この子と、そして、お二人を護るために」
ただ一つの意志だけがある。日和はそれだけを伝えた。
「わたし自身と、わたしの子のために」
――凛と鳴る言霊。それは木々に流れ山を包み、蒼紅の二人にも確かに伝わった。
言葉は、いや、言葉を発する人の内にある意志は、万象にも伝わりその意に応えるという。日和には陰りも偽りも惑いもない。その純粋なる意志に触れ、蒼装束もまた日和の意に自然と応えていた。
「ならば、よかろう」
蒼装束は一歩踏み出した。紅装束も同じ気持ちなのだろう。同じく日和の傍へと寄る。
「やってみるがいい。我らもお前に従おう」
「ありがとうございます」
「なに、どちらにせよ危ない賭けだったのだ。ならば、信じられるお前を選ぶ」
礼を言い頭を下げる日和に蒼装束は微笑んだ。不思議な出会いではあったが、得がたき縁を結ばれたことを今は素直に嬉しく思った。そして、同時にこうも思う。これが宿縁であるならば、定められたことであるならば、全てが上手くいくだろうと。日和の意志に触れたお陰か、自然とそう思うことができた。
「さあ、参ろう」
「はい」
幼き天狗の子へと視線を向ける。柔らかく健やかに眠る愛らしい幼子を起こすことに心が痛むが、「ごめんね」と胸で謝しながら日和はソッとその頬へと触れた。
そして――
――――――――――
我が身一つ
我が身一つで済むならば
微笑み願う 皆の幸せ