(しかし、とはいえ、ここまでのなさりようは……)
席を外すだけではない……おそらく、現上首は当家を潰そうとしている。
「――良い日和ですね」
自分の名をいったわけではない。といっても、ついおかしくもなってしまってクスリと微笑み、目を細め風景を眺めて言った日和の声に、雨雲のように曇っていた内が晴れるような心地になりながら、
「ほんとうに」
陽織はにこと笑って応じた。
自分が同じ立場だったならば、この方と同じように優しく微笑むことができるだろうか。本当にそう思う。
代替わりしてから十日。前当主が亡くなられてからおよそ二ヶ月。つまり四十九日が過ぎた次の日に代替わりし、家が落ち着く間もなく上首から命が下った。更にいうならば、大小母様が亡くなられてから一年と経ってはいない。
日に日に周囲の心が離れていっているのは感じていた。上首の反感を恐れ、当家とは関わらないようにしているのだろう。今、周りにいるのはごく少数の親近の者だけだった。
果たして……本当に自分のことだったなら、と思う。嫌味と嘲笑は常のこと、害する策動、裏切り……もし、我が身であれば、絶望に打ちひしがれ不信に囚われ、優しく微笑むことなどできなかっただろう。