「知っての通り、妖と万象とは密接な関係にある。いや、一体といってもいい。故に、力ある者は必ず霊山と共に在る」
「わかっています。しかし……」
「わかっている」
同じ「わかっている」と返し、蒼装束は日和の続く言葉を止める。
日和が話そうとした「互いに退く」ということの意を蒼装束はわかっていた。動かせるのなら、とっくに動かしている。そのほうがいいこともわかっている。
「十一家の者に我らの存在は知られている。それは、お前が来る前からわかっていたこと。そして、勘違いをしている馬鹿も――妖も少なからずでてきている。格の高い妖を喰らえば、自らの存在も高まる。そんなことを信じている馬鹿がな」
「知ったことではない。我らは戦うのみ」
「ああ」
紅装束の言葉に蒼装束は短く応えた。覚悟はとうに決めている。
しかし――
「しかし、それではお二人は……」
蒼装束の内と同じ言葉を口にし、日和は代弁するように話を続けた。
「十一家、いえ、『十家』からは刺客を送られ、妖からも狙われ、それでお二人はどうなります」
「負けはせぬ。戦い続け、我らは必ず生きねばならぬ。この子のために」
凛と刃が鳴るように自らに誓うその姿に、
「わたしと――」
日和は自然と口を開いていた。
「わたしと同じですね」
戦わなくて良かったと心から思う。蒼紅の二人と自分は同じだった。想いの深さも、誓いの強さも。そうであるからこそ、日和は意を決していた。迷いを無くし、内に誓う。
「一つ考えがあります」
「なんだ?」
「癒滅ヶ術。それならば、あるいはどうにかできませんか」
「……力を治め力を与える術、か」
日和の話に蒼装束は頷き、腕を組んで瞳を閉じた。木々を揺らし、葉が風に囁く声だけが響く中、日和は黙って蒼装束を見つめた。