「優美なる姿とは聞くところでしたが、この子のお母様もお綺麗な方なのでしょうね」
「美しい方だった。そして、強い方だった。縁があったのは幸せなことだった」
「……そうですか」
蒼装束は『だった』と話した。その言葉で、幼子の母は過去のことだということを察し、日和は寂しそうに呟き眠る幼子へと瞳を向けた。
こんなに愛らしい子を残して逝ってしまうのはどんなに辛かったろう……まだ産まれてはいないが、子を宿す母としてその現実を重く深く受け止める。無念や、心を痛めるといった言葉では表せないほどの想いがあったことは間違いなかった。そして、願ったであろう、我が子の幸せを。苦しみも悲しみもあるだろうが、それを乗り越える本当の幸せを。真っ直ぐ生き抜いて欲しいと。
その想いを、願いを、蒼紅の二人に託した。
「いつ目が覚めるのですか?」
「一月か二月か、または半年か一年か。十年もかかることはなかろうが、果たして」
「…………」
蒼装束の言葉に、日和は愁いを湛えて黙った。二人が護ると話したこと、そして、今まで戦ってきた現実が胸を過ぎる。
「残念だが、動かせぬ」
日和の想いを感じ取り――知らずこの少女の考えを感じとれるようになっている現実に内で苦笑しながらも蒼装束は先を続けた。
「お互いに退ければと思ったのだろう。しかし、この赤子は動かせぬ。名はないが、ここは数ある中でも清浄な霊峰。切り崩され、少なくなっている霊山の中でも貴重な場」
木々の息吹、山の香り、満たされる自然の気を感じつつ、蒼装束は神木へと手を触れた。