「ああ――」

 その愛らしい姿に、思わず日和は声を洩らした。
 樹齢何百年になろうかという大木――いや、おそらくは山の中心となる神木に違いない。その神木の根にある特別に設えた自然の寝床で、幼子は丸まって静かな吐息を立てていた。
 歳でいえば、三歳くらいだろうか――もちろん、妖の場合見た目そのままの歳ではないだろうが。柔らかそうなふわりとした長い髪に白い肌。ふっくらした頬に、同じようにふっくらしたお腹を微かに動かして吐息を出している。小さな小さな幼い女の子。
 それだけ見れば普通の人間の子と同じだが、ただ一つだけ違うものがある。背にある真白い翼。それだけは人と違う。しかし、妖というよりは、日和には諸天が遣わした童女のように見えた。

「なんて可愛らしい女の子……まるで天女の子のよう」
「あながち、間違っておらぬかもしれんな」

 紅装束は笑い、天女と例えられた幼子へと目を細め言葉を続けた。

「この娘は、天逆毎姫(あまのさこのひめ)の筋の者となる。天逆毎姫は知っているか?」
「天逆毎姫……スサノオの息から産まれたといわれる女ノ神。天狗や天邪鬼の祖先と聞いています」
「その通り。この娘は天狗の子だ」

 紅装束の言葉に頷き、日和は再び幼子に視線を向けた。実をいえば天狗を見たのは初めてだったのだが、成程、確かにと思う。女天狗は翼がなければ普通の人間の女性と見紛うほどだという。そして、その姿は美しく優雅だと聞いていた。目の前の幼子はまさにその通りだった。