上首の性格は知っている。もし、ここで自分が退き、退治したと偽って報告したとしても証を見せよといってくるだろう。ここに検分をしにくるかもしれない。だからといって、戦うことは――日和にはできなくなっていた。何より、退くというのが一番だと思い始めている。
 けれど、

(それでは、我が家は、皆は……)

 我が身一つだけで済むのであれば、何の問題もなかった。すぐに退くことができた。しかし、それで済むことはない。

(そう――それで済むことはない)

 日和は二度繰り返した。今までの上首の仕打ちを思い出す。我が身一つとはいうが、自分に何かあれば、それはそのまま家の衰退につながる。それを自分が起こすわけにはいかなかった。皆の無事……当主として皆の安心をも守らねばならない。
 代替わりしたばかり。それに加え、我が家の立ち位置はますます危うくなっていた。にも関わらず、当家から離れず従ってくれている者たちがいる。いけないことだと分かっていながら、離れてくれれば――と思ってしまうことがあった。すでに離れた者に対して、恨みに思ったことはない。逆に感謝をしていた、幸せになってほしいとも。
 離れたほうがいい、そのほうが幸せなのだ。そのほうが安心できる……自分も含めて。
 我が身一つで、我が身一つで済めばと何度も思った。だけれど、そんな自分を慕ってくれる者たちがいる。そして、そうである限り自分は、

(負けるわけにはいかない。戦い続けなければいけない)

 そして、

(迷ってはいけない)

 それが、当主としての責任だった。