「十一家の上首たる先々代第一家当主が亡くなりました。一年ほど前のことです」
「成程」

 それだけで全てを理解する。先々代の当主、蒼装束も会ったことはないのだが、日和があえてその名をだしたことで、その当主たる人間がどれだけ力をもっていた人物だったか分かる。おそらくは、現当主よりも権力、影響力があったのだろう。隠居してなお権限がある事例など腐るほどあった。
 そんな力ある人物が亡くなった。長が変われば、その家の性質も変わる。それは国でも同じこと。長い歴史の中で幾たびも繰り返してきたことだ。そして、それは妖の世界でも変わりはない。だから、だろうか。
 だからこそ、蒼装束は日和の苦悩が分かった。

「月隠といえば、十一家末席だったな。八十年ほど前か、新しく席に列なった際、妖の中には大きな妖討伐への準備ではないかと話が上ったのだが、すぐに治まったことを覚えている。月隠を知る者の話では、脅威どころか戦いにも向いていないという。それを聞いて、話はなくなった」

 情は移さぬ――そう決めていても、真っ直ぐ向けられる日和の視線に蒼装束の内は僅かに揺らいだ。話せば話すほど深みにはまってしまっている。そうだと知っていても、余計な事だと自覚していても、蒼装束はつい言葉を挟んでしまった。

「末席ならば、立場も苦しかろう。望まぬ戦いでも、せねばならぬ」

 蒼装束の言葉に、日和はニコリと微かに微笑んだ。その微笑みは何を表しているのか、どういう意味なのか――ただ一つ分かることは、日和は、子を宿した小さき少女は強いということだった。どんな状況でも微笑むことができる凛々しさを持っていた。