「それで、童女――いや、日和と呼んだほうがいいか」
「はい」
「こやつの言うとおり、このままというのも退屈だろう。少し話をしようか、我らの、妖の話を」
蒼装束は軽く袖を揺らし、手を太股へと添えた。話す前に姿勢を正したというほどでもないが、多少の心は整える。あまり、この少女に情を移さないように自らを戒めて。
「先程、人を殺すことで徳が積まれると思っている馬鹿もいる、とはいったが、妖であれば、つまり、妖同士であればまた少し違ってきてな。格の高い妖の血肉を喰らえば力が上がるということはある――といわれている」
「それは?」
今までの口調とは変わり、断言しなかった物言いを不思議に思って問いかけると、蒼装束の女は苦笑して答えた。
「自ら経験したことはないからな。更にいえば、噂を聞いただけで実際に見たことはない」
「更に付け加えるなら」
よほど落ち着いて和んでいるのか親しい友に世間話をするように日和へと視線を向け、蒼装束の話の終わりに湯飲みを手で弄びながら紅装束が続けた。
「同族殺しの上、それを喰ったとなれば、そいつは追われる立場となる。いや、狩られる立場か。妖の世界にも決まりがあるからな。とはいえ、全てに害をなす化物も稀に出てくるようだが、幸いにも我らはまだ見たことはない」
「幸いにもまだ、な。何を血迷ったか、馬鹿なら近頃増えてきているようだが」
「どういうことですか?」
「その通りの意味だよ。格の高い妖を付け狙う動きが近頃目立っていてな。まったく馬鹿が増えると過ごし難くなって困る。そうは思わないか、日和。妖の世界でも――人の世界でも」
蒼装束の言葉と視線に、
「…………」
日和は湯飲みを置き、少しだけ目を伏せた。