近くに置いてあった日和の荷には武器すらなかった。あったのは水の入った竹筒と小さな湯飲みと小さな急須、茶の葉。水出しの茶のため多少の時間が必要だったが、手馴れたように日和は準備を整えた。
「ふむ、美味い」
蒼装束は茶を一口飲み、頬を緩めた。完全に信を置いたわけではないが、日和の魅力に急速に惹かれつつあるのも否めない。
面白い奴、と思っている。どれだけの器か。
紅装束も湯飲みに再び口をつけ、日和も手に取る。湯飲みは三つ。まさかと思う。初めから茶を飲むことを考えて湯飲みを三つ用意していたのか。もし、そうであるならば、
(我らは、まんまとこやつの術中にはまっているということだな)
笑みがこぼれる。そのことが面白くてしょうがない。
久しい愉悦に気持ちのいい風を感じながら茶を楽しむ。これだけ穏やかな気持ちになるのも久しぶりのこと。そして、そうさせているのは間違いなく目の前の少女の持つ空気のせいだった。
妙な女だ――と再び思う。
十一家を名乗れば戦いを避けられぬと分かっていながら自ら名を名乗り、戦いに来たといいながら戦う気配がない。しかも、子を孕んでおきながら、無謀な戦いを挑んだ。体術は確かなようだが、我ら二人を相手にして無傷でいられることはなかっただろう。つまりは、
(戦いたくなくとも、戦わなくてはならぬ理由がある。退けぬ理由がある)
ということになる。だが、
(そんな事情があるにも関わらず、この女は――)
柔らかい空気を、優しい微笑を成している。時折、悲しい顔を覗かせるが、悲壮感というほどのものはない。
そして、そうでなければ、我らの分の湯のみまで用意などできないであろう。そうだからこそ、こうして自然と茶を飲めている。
――トッ
湯飲みを置き、蒼装束の女は落ち着いた声音で口を開いた。