――これが夢だと分かったのは、自分の他にもう一人居たからだ。
 自分の目の前にいる少女。歳はそんなに変わらないように見える。

 そうか――この人はこんなに幼く、わたしと同じくらいに――

 知らない少女。だけれど、日向はその少女が誰か分かっていた。鏡を見ているかとも思う、自分と同じ姿、自分と同じ顔立ち。唯一違うのは髪の長さだけ。目の前の少女の髪は長く、自分は短い。
 皆が言っていたことが分かる。こんなにも鏡を見るように似ていたのかと思う。だから、朝、鏡に触れたように手を伸ばしてみた。
 少女はにこりと微笑み、同じように手を伸ばす。触れる指、体温、優しさ――そうして、分かった。朝、自分が見ていたのは自身の姿ではなく、この少女を見ていたのだ。
 少女を呼ぶ。初めて会ったのに、初めてではない少女。いつも一緒に居り、共に居た少女。共に生きてきた女性――

「――母様」

 呼ぶ日向の声に、女性――日和は微笑んだ。やっと、会えましたね――言葉はなくともそう伝えて。

「母様」

 日向は日和の胸に飛び込んだ。暖かく優しい抱擁――自分の全てを包み、受け入れてくれる日和の腕《かいな》。
 何を言ったらいいのか、何を伝えたらいいのか――だけれど、そんなことは必要なかった。
 いつも側に、いつも共に居てくれたのだから。語らずとも、伝えなくとも母は全てを知っていた。日向の気持ちも、心も、想いも。
 だから――

『――みんなのこと、お願いね』

 母は、日和はそう言った。

『あなたは、わたしが護ります。いつも側に、いつも共に――共に生きます』

 日向は頷いた。日和の胸の中で――自然と頬を伝う雫を止めないまま、ただ、日和の言葉に頷いた。

『だから、あなたは――日向は、安心して頑張りなさい』

 日和は日向を抱き、頭を撫で、頬に触れた。
 見上げる日向と視線を合わせ――優しく、強く、微笑む。

『大好きよ、日向――わたしの子。大好きな、大好きな、可愛い子』

 日向も伝える――大好きな気持ちを。感謝を、尊敬を――産んでくれてありがとうと。

『日向――』

 日和は日向をぎゅっと抱きしめた。それ以上の言葉はなくとも、全てが分かった。全て伝わっていた。