前よりも優しく、だけれど、強く、凛々しく……そして、綺麗になっていた。深々と降る雪、銀雪の朝のように静かに透き通り、日向射す小春の散桜のように優しく暖かく、疾風吹き青葉靡く初夏の風のように清く穏やかに、天高く全てが満ち色づく紅葉の鮮やかさ、艶やかさのように――――

 その空気に触れただけで胸が高鳴る。以前とは違う胸の高揚と想い。そのことに、日咲自身が戸惑っていた。何故こんなにも高鳴るのか――久しぶりに会えたからだけでは決して無い――こんなにも、こんなにも『好き』が抑えられないなんて――

「日咲ちゃん――」

 日向はにこりと微笑み日咲に近づき――そして、その胸に倒れた。

「ひなちゃんっ!?」
「日向っ!」

 日咲が驚き陽織が慌てて近づくと、日向は日咲の胸の中で――安らかに眠っていた。

「ひなちゃん……」
「今までずっと気を張っていたのだろう。日常に戻り、その疲れが一気にでたか」
「よかった……」

 灯澄の言葉に陽織は胸を撫で下ろした。
 考えてみれば無理からぬこと。灯澄と燈燕に出会ってからというもの日向には一時も心休まる時がなかった。男として生きることになり、日愛の事、日和の事、癒滅が術の事、月隠の事、妖の事、月代の事を全て知り、全てを背負い、悲しむ間もなく当主となった。安易に想像できないほど幼き十四の少年には重く辛いことだったろう。
 灯澄はやれやれと思うが、今は静かに寝かせてやることにした。今はそう、今から始まるこの人としての日常を愉しんでもいいだろう。

「ひなちゃん……」
「ははさま……」

 日向の淡い微笑みを含んだ安らかな寝顔に、日咲と日愛は呟き……そして、日咲は驚いたように可愛らしい幼い女の子を見つめた。

「ははさま?」
「うん、日向ははさま」

 迷いなく頷く幼い女の子に、日咲は言葉をなくした。日向に会えた嬉しさも冷めないうちに、頭の中が混乱で埋まる。

「日咲ちゃん、ゆっくりお話するから……」

 陽織が苦笑して、慌てて説明を始める。
 そんな光景に、学園長室に居た全員、灯澄も燈燕もスズも妃紗も笑った。

 そんな中、微笑みを含んだ眠り姫――日向は何を思っているのだろうか。
 全てはこれから、この十四の歳に自身が定め誓った月隠日向の人生はまだ始まったばかりだった。