「幼子には触れさせたくないと思うのが務めであり、情だろう。子を護る者なら尚更、親心というのはそういうものであろう」
「……幼子」
紅装束は驚き蒼装束へと顔を向け、日和は僅かに俯き小さく呟いた。
「子がいるのですか?」
顔を上げ、日和は問いかける。その顔は今までの表情とは違っていた。瞳の奥に真に迫るものが宿っている。
「我らの子ではない。親から頼まれた子だ」
やや困惑しながらも口を挟むことはなく紅装束が黙って見守る中、蒼装束は問いに答えた。日和の瞳に内で頷く。やはり、この童女は――
「ということは、もしや貴女方お二人がここに居られるのは……」
「子を護る為」
「そうだったのですか」
日和はそう呟き瞳を伏せ――そっと自らのお腹に手を触れた。
「どうした? 何故、そんな苦しそうな顔をする?」
「子を護りたいというお気持ち、私にもよく分かります」
「……やはり、そうだったか。戦いの最中、不自然に退き身体を庇うことが度々あった。それで、もしやとは思ったのだが」
蒼装束が鋭い視線を向ける。幼子のことを話した意図がようやく分かった紅装束も日和へと顔を向けた。
二人の視線を受け、日和は困ったように微笑み――そして、その中に少しの悲しみも宿して、静かに口を開いた。
「知られていましたか」
「我らでなければ弱みととられ腹を狙われていただろう。子と共にお前は死んでいた。それでいて、何故戦おうと思った?」
「…………」
(ふむ……)
「……参ったな、どうにもこれは」
怒られた幼子のように黙り俯く日和に、蒼装束は内で呟き、紅装束はほとほと困ったように息を付いた。
木々を揺らす風の囁きだけが聞こえてくる。そんな静寂に蒼紅の女は力を抜くと、それぞれに蒼装束は腕を組み、紅装束は頭を掻いて立ち尽くした。これでは、もう戦えない。戦う気も全てなくなってしまった。