「ここへ来て、お前に会って分かった。お前も後悔しているのだろう?」
「…………」

 灯澄の言葉に、今度は弥音が黙る。

「ならば、我らと一緒だ。恨むことはない」
「……そうですか」

 弥音は瞼を伏せ、苦笑したように、力なく微笑む。いっそ、恨んでもらったほうが……と思っていたのかもしれない。日向はそう感じた。
 トクン――と胸が鳴る。後悔……灯澄の話に、弥音は頷いた。後悔していると。
 母を、日和を行かせたことを後悔しているのだろう。月代へと、一人で行かせたことを。今でも、ずっと――

「弥音様、そんなことを仰らないでください」

 日向は自然と言葉を発していた。自分と、自分の中の母の想いが止められなかった。伝えなければいけない。決して、そうではないと。

「わたしは感謝しています。弥音様が母の望むまま行かせてくださったこと、どんなに感謝してもしきれません。弥音様のお陰で、十四年、わたしはこうして育つことができました」

 凛と言の葉鳴り、深々と響き流れ、心伝え――そして、日向はスッと深く頭を下げた。

「母と共にお礼をいわせてください。本当に、本当にありがとうございました」
「――――」

 その日向の姿に――母子の言葉に――弥音は驚きと共に、声を出すことができなかった。

「――本当にあなたは……日和さんのお子なのですね。本当によく……生き返ったかのよう……」

 しばらくの静寂の後、ようやくにして絞りだした弥音の声は、少し震えていた。

「お礼をいうのは私です……今の言葉で救われました。ありがとう、日向さん。本当によく、よく来てくださいました」

 溢れる涙をもう一度拭き、弥音は、にこりと――それは、弥夜や弥卯が初めてみるような微笑で――笑った。