トクン――と、胸が鳴った。顔も覚えておらず、姿も声も分からない母。その母に近づき、知って、自分の内にある心が鳴っている。空気が振動し音を伝えるように、胸が鳴る音は日向自身に響き、母を伝えていた。
(――うん、そう)
母と一緒だからこそ、自分の心にある母が伝えてくれていた。
そうなのだ、ここへ来た理由――母の声を聞くため。自分の中にある母と対話するために、わたしはここへと来たのだ。
日向は、瞼を開いた。知らず、しばらくの間黙っていたのかもしれない。瞼を開けると、弥音がこちらを見つめていた。
「…………」
何もかも分かってくれているように、にこりと微笑み、そして、弥音は日愛、灯澄、燈燕、スズとそれぞれに視線を向けた。
「初めて、ではありませんね。こうして対面するのは初めてですが、幾度かお見かけしていました」
「……そうだな」
と低く応えたのは、灯澄一人。この場での代表は……妖としての代表は灯澄だった。周りもそれが分かっているのか、誰も口を挟まない。
「ありがとうございます」
弥音はお礼を伝え、深々と頭を下げた。それは、単なる儀礼ではなく、本当に心からの感謝の言葉だった。
「日向さんを護ってくださり……そして、日和さんと共にいてくださいました。本当に、ありがとうございます」
「礼はよい……日和と共に生き、日向を護り従うのは我らの意志だ。誰かに命じられてやっているのではない」
「……私を恨んでいるのではありませんか?」
「…………」
急に放たれた弥音の二言目に、灯澄は黙り視線だけを向けた。
陽織と弥夜、弥卯の三人に緊張が走る。日向は何もいわず弥音を見つめ、そして、後ろにいる灯澄を背で感じていた。
「……恨んではいない」
灯澄は小さく呟いた。