「陽織もお久しぶりです。よく……よく、日向さんと共にいてくれました」
「いえ、そのような……」
陽織は途中で言葉を止め、瞼を僅かに伏せ俯いた。もしかして、と思う。もしや、弥音は……
「弥音様、知っておられたのですか?」
日向のことは、日和に子がいることは月隠の者しか……最後まで家に残ってくれた六名と、妖の僅かな者だけしか知らないはずだった。にも関わらず、月隠日向という名と、その来訪だけで日和の子だと弥音は知っていた。
「知っていました。ふふ、隠そうとしていたようですが、日和さんもあなたも隠し事はできない性格でしょう。気付いていましたが、訳あることも分かり黙っていました」
弥音は微笑み、そして、言葉を次いだ。
「分からないはずがありません。日和さんのことなのです。ましてや、言祝ぐこと……分かります。友人ならば」
友人なれば――その、嬉しさも、苦しさも、悲しさも分かっています。
言葉にしないその想いが伝わり、陽織はもう一度瞼を伏せ、そして、弥音へと深く一礼した。
「だからこそ、お礼を言わせてください。本当に、よく日向さんを護り、育んでくれました。ありがとう、陽織」
「……ありがとうございます、弥音様」
陽織は頭を下げる……溢れる涙を止められず、雫を落としたまま。
十四年分の想いが過ぎる。その感情は言葉では表せないものだった。ただ、純粋たる涙の雫のみが全て表し物語っている。陽織と弥音しか分からない、日和の想いがそこにはあった。
日向は弥音を、陽織を見つめ、その涙を見つめ……僅かに瞼を伏せた。日愛、灯澄、燈燕とは違う、幼少の頃からの母の想いがここにある。