「ようこそ、お待ちしておりました」
長い黒髪の女性はすっと一礼し、そして、優しく、慈しみの眼差しを向けて、その名を呼ぶ。
「お会いできて嬉しいです。日向さん」
紫藤の着物を身に纏った長い黒髪の女性、弥夜と弥卯の母親だとすぐに分かる綺麗で上品な佇まい。清廉な気に満ち、風雅が漂っているのは間違いなくこの女性が持つ空気によるものだった。
三尊月弥音は日向へと微笑むと、部屋へと誘った。日向もまた不思議な気持ちを抱いていた。会ったことはないはず。会ったことはないはずなのに、不思議と初めてな気がしない落ち着く雰囲気。
日向たちが部屋に入り座るまで、弥音はずっと日向を見つめていた。まるで懐かしいものを見つめるように、嬉しさと……悲しさをその瞳に宿して。
「――私の願いを聞き届け、こうして来て下さった事、改めてお礼を言わせてください。ありがとう、日向さん」
弥夜と弥卯がお茶の準備を整え一息ついてしばらく、弥音は改めて御礼を伝え頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。お会いできて嬉しいです」
優しく柔らかく微笑みを返す日向を見つめ、弥音は……潤む瞳を堪えるように瞼を伏せ、そして、微笑み返し呟く。
「ほんとうにそっくり……まるで、日和さんに会っているかのよう……」
スッ――と弥音は日向に近づき、そっと抱き寄せた。
「よくぞ、ここまで……日和さんもどんなに喜んで……」
そこまで話し、震える声を止められず……弥音は雫をこぼす。
「弥音様……」
日向は呟き……そして、涙落ちる弥音の胸の中で瞳を閉じた。
きっと母も、こうして弥音に抱かれていたに違いない――何故か、不思議とそう心に浮かんだ。そう、弥音に母を会わせるために、自分はここへきたのだ。母の名代として……そして、また、自分がより母のことを知るために。
「……ごめんなさい。驚いたでしょう? 急に、こんな」
「いえ……懐かしい感じがしました」
身体を離して微笑んだ弥音は、日向の言葉に驚き……改めて座りなおしてから、本当におかしそうに……だけれど、本当に悲しそうに……笑った。
「私も、同じです。懐かしい感じがしました、ほんとうに」
そっと涙を拭き、弥音は陽織へと視線を向けた。