「――わたしも、お聞きしたいことがあります」
どうしたものかと蒼と紅の装束二人が考えている中――しばらくの沈黙の後、日和は二人に視線を向け静かに口を開いた。
「何故、わたしを殺そうとしなかったのですか。わたしがいうべきことではありませんが、お二方に殺気はありませんでした」
「それは、お前のせいだよ、童女」
日和の問いに、蒼装束は苦笑した。日和は自分で自らがどういう戦いをしているのかを分かっていないらしい。対する者をどういう気持ちにさせているのかも。
「殺すつもりがない相手を、こちらも殺すことはない。それは、戦いではないからな」
「ですが、戦いを臨んだ者でもお二人は逃がしていると聞きました。無用な殺生をしていないと」
「人による。無礼な人間であれば容赦はせぬ。が、殺さなくてもいい人間であるならば、殺しはしない。妖《あやかし》の中には人を殺すことで徳が積まれ長生きするなどと信じている馬鹿もいるようだが、命というものはそんなに軽いものではない。人でも――妖でもな」
と、ここまで言葉を続け、蒼装束は一拍の間を置いた。ついつい訓うるという形になってしまうのは自分の悪い性だったが、それ以外の想いも心の内で生まれ始めていた。
さて、どうするか――蒼装束は再度口を開いた。
「特に死に関する悪念というのは厄介な物でな。悪念に触れれば、悪縁、悪業までもが纏わりつき自分だけではなく周りの内にまで染み込んでしまう。背負う覚悟がある者ならばいいだろうが」
もう一度、一拍の間を置く。本来であるならば、これ以上話す必要も意味もない。会って間もないこの童女に信をもっているわけでもない。
しかし、
(おそらく、この童女には――)
戦って癒滅の術以外にも気付いたことがある。この童女ならば、あるいは話をしたほうが良いのかもしれない。