「今の人と妖の関係はどうなのですか?」
「月代とか?」
「いえ、人の社会とです」
「人の社会か、ふむ」
日向の問いに、灯澄は頷いた。日向の問いはもっともだ……とはいえ、灯澄自身も改めて考えたことはなかった。人の社会と妖など、自身にとってはあまり関係はない。
だが、日向は人だ。人の社会と切り離して考えられないことは当然だった。灯澄は腕を組み、しばらく考え……それから話を始めた。
「有名といっていいか……妖の歴史の中でも最も妖が世で動いたというのなら、平安の時だろう。我らも伝え聞いた知識でしかないがな。だが、平安の昔と今では当然ながら時代が違う」
話しながら思う。ついつい勘違いしてしまいそうになるが、日向が妖の存在を知ったのはつい最近。知らないのは当然だった。
体術だけでなく、知識も教えねばならなかったか、と今になって多少後悔しつつ、灯澄は言葉を続けた。
「今はどうか。一言でいえば御伽話と一緒だ」
「御伽話、ですか?」
「そうだ。もはや語られる空想の話でしかない。実在する存在ではなくなっている」
「でも、それでは……」
「ああ、分かっている。月代だろう?」
妖はもはや架空の存在と成っている。人畜無害になりつつあるのに、何故月代は妖怪を狙うのか。日向の疑問は当然と灯澄は頷いた。
「月代は代々妖退治をその役割としてきた。それが存在理由であり、『今も』存在している理由でもある。矛盾しているように聞こえるだろうが、月代の存在は一貫している。妖を全て滅ぼさなければ、月代は終わらぬ。世の全ての妖をな。人の社会を害する、害さないというのは問題ではない。妖の存在そのものが、月代の敵なのだ」
「そして、だからこそ今でも国が月代を飼っている」
「しかし、それは国の人たちも同じ考えなのですか?」
灯澄の後に続けた燈燕に日向はすぐに問うた。