「むしろ、月代はこちらが妖につくことを望んでいるのかもしれぬ。会いたいと接してくるだろうが、『家の復権』などとこちらが逆上することを話し、わざと敵対させるように仕向ける……それも考えられる」
「それで、今度こそ完全に滅ぼすか」
「しかし、いくら月代といえど、それはできないと思います」
灯澄と燈燕のやりとりに陽織は口を開いた。この中でいえば、陽織が一番月代と人の社会のことを分かっていた。二人の考えには同意するが、陽織の見るところは少し違った。
「元は家に居たとはいえ、今私たちは月代とは無関係です。いえ、月代が無関係にしました。身内を……独断で罰することはできても、無関係な人間まで罰することなどできないはずです」
「それは、妖とは無関係の人間だろう」
「それでも、月代は妖に対しては制限はありませんが、人が関わっていた場合、社会と同じく法の下で動かなければいけません。だからこそ、国の一部でいられるのです。もし、妖に関わった人全てを独断で罰せれるというのなら、それは妖だけではなく人の脅威にもなりますから」
「だから、黙って見ているとでも?」
「それは……」
「それに、日向は普通の人間とは違う……気を悪くしたら許してくれ、日向。我らは祭り上げることなどせぬが、周りから見ればそうはならぬだろう。一つの勢力と見られるはずだ。妖を敵とする月代にしてみれば、面白くない存在だろう」
口ごもる陽織に灯澄は言葉を続け日向へと視線を向けた。
黙すること一時――日向は灯澄の話すことは重々に分かっている。だが、自身のことはともあれ、もっとより根幹なことが気になっていた。
自身と月代というよりももっと深い問題。まずはそれを知らねば自身のことなども決められない。